法面保護工は、法面の風化・侵食を防止し、法面の安定を図るための工法です。
法面保護工は、大別すると以下の3つに分けられます。
- 植生を用いる「植生工」
- コンクリート等の構造物を用いる「構造物工」
- 法面の風化・侵食の原因である地表水・浸透水を排除する「法面排水工」
今回、構造物工についてまとめてみます。
目次
法面保護工における「構造物工」の方法・特徴について
構造物工は、コンクリートや石材を用いて、法面浸食防止・風化抑制を図る工法です。
永続的な安定が求められコストが非常にかかるので、植生工が使用できず、表層滑落・崩壊・落石等の不安定化が発生するおそれのある場合のみで用いられます。
施工方法は以下のものがあります。
【構造物工の種類】
- 吹付工(コンクリート吹付工・モルタル吹付)
- 張工(石張工・ブロック張工・コンクリート張工)
- プレキャスト法枠工
- 現場打ちコンクリート枠工
①吹付工(コンクリート吹付工・モルタル吹付)
モルタル・コンクリート吹付工は、亀裂の多い岩の法面風化防止・小規模岩盤の法面剥落防止・崩壊防止のため、モルタル・コンクリートで崖面や法面を覆う工法です。
型枠なしで直接吹付するため、施工性が優れているのでコスト面でも比較的安く、切土法面で多く採用されている工法になります。
ただしコンクリートを吹付けるだけなので、土圧を受けない条件が必要です。
乾式・湿式の2パターンありますが、基本的には湿式しか使用されません。
コンクリートかモルタルかは以下の表で判断できます。
吹付工(コンクリート吹付工・モルタル吹付)の施工方法は以下のようになります。
【吹付工(コンクリート吹付工・モルタル吹付)の施工手順】
- 事前調査
- 法面整形・清掃
- ラス金網張付
- 水抜き孔設置
- 材料準備
- 吹付
①事前調査
吹付工が施工するためには、不安定な土塊・岩塊が存在しない安定状態であることが条件です。
そのため事前に調査が必要で、踏査のみではなくボーリング調査を行い、風化深度・亀裂密度・地山強度などを把握します。
【事前調査項目】
- 崖面末端における崩落物の堆積状況
- 植生および湧水分布
- 浮き石や不安定岩塊の有無
- 近隣斜面を含む崖面の崩壊履歴および崩壊形態
ボーリング調査(標準貫入試験)については、下記で詳細にまとめていますのでご参照ください。
参考ページ:標準貫入試験の試験方法と結果について
②法面整形・清掃
吹付工は法面と一体化が基本で、剥離を防止するために法面の端部や肩部の整形が必要です。
また整形と同時に浮石・雑草木を除去し、圧力水などで清掃します。
この作業を丁寧にできるかどうかが、施工後の劣化に大きく左右することといっても過言ではありません。
③ラス金網張付
吹付工には温度変化による伸縮クラックが入りやすく、吹付厚が薄いほど注意が必要です。
コンクリートは圧縮に強いですが、引張には弱い点を補う必要があります。
そのため亀裂の分散・はく離防止を目的として、金網張り工の併用が必須です。
法面が平滑な場合は溶接金網、凹凸な場合には菱形金網を使用し、金網の重ね合わせは10cm以上かぶせます。
ラス張アンカー鉄筋(φ16㎜×400㎜)は100㎡当り30本で設置し、補強アンカー鉄筋(φ9㎜×200㎜)は100㎡当り150本で設置します。
④水抜き孔設置
吹付工には、水抜き孔を設置する必要があります。
原則として、水抜きパイプとしてVPφ50ほどのものを2~4m2に1本の割合でを取付けます。
水抜きパイプは、約2%の勾配を付けて施工するため、吹付厚さの1.3~1.5倍の長さで設置します。
湧水状況に応じて本数を増やす場合もあります。
湧水が著しい部分については、「法面排水工」の検討が必要になります。
参考ページ:法面保護工における法面排水工の方法・特徴について
⑤材料準備
セメント、洗砂、水を吹付機に投入し、攪拌装置内で均等に練り混ぜます。
以下の割合で配合します。
W/C | C:S:G | C:S | |
コンクリート吹付 | 45~55% | 1:4:1 | |
モルタル吹付 | 45~55% | 1:4 |
※C:セメント S:砂 G:砂利
⑥吹付
ラス金網上にコンプレッサーの圧縮空気でモルタル・コンクリートを吹付けます。
吹付厚さは、一般的にモルタル5〜10cm、コンクリート10〜20cmで行われます。
吹付は、ノズルは常に吹付面に直角になるよう保持し、適切な距離と吹付圧力を維持し、垂れ下がらない範囲で所定厚になるまで反復して上部より漸次下部に吹き付けます。
モルタル・コンクリート吹付の基礎部には、洗掘を防止するために基礎工を設けます。
吹付厚が15cm以上で施工高が高く、ずり落ちが懸念される場合も必要に応じて適切な基礎工を設けることが望ましいです。
法肩は、地山からの雨水の侵入を防止し法肩の安定を図るため、十分なラウンディングを行い、地山まで巻き込みます。
注意事項として、氷点以下・豪雨・強風・場合は、適正な吹付施工・養生ができないため、できるだけ実施しないように気を付けます。
また、吹付工は温度変化による膨張・収縮の影響を受けるので、伸縮目地をのり面縦方向に 10m間隔に設置する。
②張工(石張工・ブロック張工・コンクリート張工)
張工は、法面の風化防止・侵食防止するため、地山表面を覆うための工法です。
法面勾配は1:1.0より緩い場合で、直高5m以内、法長7m以内で施工します。
粘着力のない土砂・泥岩・軟岩・粘性土などで使用されます。
張工には以下の工法があります。
【張工の種類】
- 石張工
- ブロック張工
- コンクリート張工
石張工
石張工は、石材にて法面の風化防止・侵食防止する工法です。
石張工に用いる石材は、割石・玉石・野面石・雑割石・間知石などを用いて、控えは30~40cmを標準として、練張を基本とします。
練張はモルタルやコンクリートを接着剤として石を積み上げることを指し、逆に接着剤なし空張と呼びます。
勾配が1:1.0より緩く粘着力のない土砂の場合に用いり、それより急な場合は石積みを行います。
ブロック張工
引用:道路土工 切土工・斜面安定工指針 P304~305
ブロック張工は、平板形状のブロックにて法面の風化防止・侵食防止のための工法です。
勾配が1:1.0より緩く粘着力のない土砂で、一般的に直高5m以内、法長7m以内で用いる場合が多い。
控えの小さいブロックを使用する場合、製品によっては胴込めコンクリ-トにより補強する必要があります。
最近は熟練工を必要としないように、空積で施工できるブロックが主流です。
吹付工と同様に、水抜きパイプとしてVPφ50ほどのものを2~4m2に1本の割合でを取付けます。
勾配が1:1.0より緩い場合を張ブロックと呼び、急な場合を積みブロックと呼びます。
コンクリート張工
コンクリート張工は、直接法面にコンクリートを打設し、法面の風化防止・侵食防止のための工法です。
割目節理の多い岩盤・崖錐層などのモルタル吹付が困難な場合に用いられます。
コンクリート張工の厚さは20~80cmで、50cmとする場合が多いです。
一般的に1:1.0程度の緩い勾配の場合は無筋コンクリート張工、1:0.5程度の急勾配の場合は鉄筋コンクリート張工が用いられます。
水平打継目は直高2.5mごとに設けることを標準とし、すべり止め用として打継ぎ鉄筋(用心鉄筋)を挿入します。
地山との一体化を図るため、すべり止め鉄筋を設けます。1~4m2に1箇所を原則として、コンクリート厚の1.5~3倍の深さでモルタル固定します。
水抜きパイプとしてVPφ50~100ほどのものを3m2に1本の割合でを取付けます。吹付工よりも、排水に気を付ける場合が多いので、VPφ100が多用されています。
土圧に対抗するものではないので、土圧に対抗する場合は、コンクリート張工にロックボルトやグランドアンカー工を併用するため、厚さ・鉄筋の配筋が異なります。
③プレキャスト法枠工
引用:道路土工 切土工・斜面安定工指針 P279
プレキャスト法枠工は、切土法面にプレキャスト型枠を設置し、法面の風化防止・侵食防止のための工法です。
コンクリートブロック製・プラスチック製・鉄製など、地山の安定性・経済性を考えて選択することができます。
「1:1.0より緩やかな勾配の法面・湧水がない・地山が土砂」の場合に適用されます。
凍結による浮き上がりが懸念される際は使用できません。
④現場打ちコンクリート枠工
現場打コンクリート枠工は、法面に型枠を設置しコンクリートポンプなどでコンクリートを打設する工法で、風化・侵食防止、表層部の崩落防止のための工法です。
枠と地山との密着性がよいので、洗掘などに強く、高品質の強度が得られやすく、かなり急なのり面でも施工が可能です。
現場打コンクリート枠工は、コンクリートブロック枠工に比べ鉄筋が連続した梁構造となっているため曲げに対しても強く、吹付工・コンクリートブロック枠工では崩落のおそれのある箇所に適用し、以下の条件の場合に施工されます。
- 切土のり面の安定勾配がとれない急斜面・長大斜面
- 湧水を伴う風化岩、土質が良好でない
- 節理・割目などの発達した長期的に不安定な岩盤
枠工
タイプとしては2種類あり、「表層崩壊防止タイプ・もたれ式擁壁タイプ」があります。
- 表層崩壊防止タイプ:吹付のり枠工の計算に準じる。1:0.8 より緩いところ
- もたれ式擁壁タイプ:もたれ式擁壁の計算に準じる。1:0.8 より急なところ
一般に幅0.3~0.6m、厚さは0.3~0.6m以上、スパンは1~4mが標準的なものです。
枠の交点が連続しているので、プレキャスト枠に比較して曲げ、せん断強度が大きいです。
枠のスパンが1.5m以上となる場合には、客土の移動や沈下を防ぐために、枠内を更にプレキャスト枠で区切るなど対策する必要があります。
プレキャスト枠工と異なり、枠の交点が一体化されているため、土圧に対して若干の抑止力が期待できるが、ロックボルト・グラウンドアンカーを併用すると大きな抑止力を発揮します。
中詰工
中詰工は、枠内斜面への浸透水の防止・降雨および表流水による侵食防止・風化による劣化防止を防止するために施工されます。
中詰工を必要とする工法として以下のものが挙げられます。
【中詰工の併用が必要な工法】
- 土砂詰工
- 土のう積工・植生土のう積工
- 植生基材吹付工
- 空石張工
- 平板ブロック張工
- 練石張工
- コンクリート張工
- コンクリート吹付
- モルタル吹付
- 植生基材吹付工
切土のり面の中詰工の選定
- のり面勾配が1:1.2より緩い土砂のり面では、土砂詰工
- のり面勾配が1:1.0~1:1.2の締まった土砂や節理の多い岩などでは、土のう積工・客土吹付工・厚層基材吹付工
- のり面勾配が 1:1.0 より急な岩質のり面などでは、のり面への接着性が強い厚層基材吹付工・練石張工・平板ブロック張工・コンクリート張工・モルタル吹付
- 浸透水によりのり面の安定が低下するおそれのある軟岩などでは、不透水性材料で被覆できる練石張工・コンクリート張工・モルタル吹付
- 湧水が多い場合には、地下排水施設を設置し空石張工
盛土のり面における中詰工の選定
- 緑化を必要とする場合では、肥沃な客土を使用し、土砂詰工・植生基材吹付工
- 片切・片盛区間で浸出水が予想される箇所では、地下排水施設などを設置し、緑化工・空石張工
- 夏期施工・乾燥期の豪雨、冬季の凍上による客土の侵食が予想される場合では、むしろ張工の併用
- 盛土材が砂質土では枠の下部などに空洞ができやすいので、張石の間詰材として粒度のよい切込砂利を使用
注意点
- 枠内へ土のうを設置するときには、土のうの沈下や移動のないように密に施工し、のり面
から15~20cm程度以上の厚みが保てるように施工する。 - 枠内植生安定をはかるための土のう止金網については、1:0.8から急なのり面に設置するのを標準とします。
- 緑化に木本類の導入する場合は、植生基材吹付工を用いる。また、強酸性土壌の場合は、植生基材吹付工の中でも有機系を用いる。
基礎工
のり枠工の基礎は、のり枠部材が一定の平面になるように天端は水平に仕上げ、上方からの荷重に対して安定している断面にします。
基礎工は、設計基準強度σck=18N/㎜2として、特別な場合を除いて無筋構造物とします。(鉄筋コンクリートの場合 σck≧24N/mm2)
一般的に、現場吹付のり枠工・プレキャストのり枠工には基礎工を設けません。
アンカーピンについては、以下の目的に即して設けます。
- 枠工のズレ防止
- 凍上の浮上がりによる誘導効果
- 地盤への緊結など枠工部材と一体化
材質は丸鋼とし、径は22㎜、長さは1.0m(土砂)・0.6m(岩)とします。
まとめ
構造物工について、不勉強ながらまとめました。
法面保護工は構造物工以外にありますので、他の施工方法について詳細に知りたい方は、こちらをご参照ください。
参考ページ:法面保護工の施工方法 ~植生工・構造物工・法面排水工~
紹介させて頂いた知識は土木施工管理技士の試験にも出てくるほど重要な知識です。
勉強に使用した書籍をまとめていますので、ご参照ください。