法面保護工は、法面の風化・侵食を防止し、法面の安定を図るための工法です。
法面保護工は、大別すると以下の3つに分けられます。
- 植生を用いる「植生工」
- コンクリート等の構造物を用いる「構造物工」
- 法面の風化・侵食の原因である地表水・浸透水を排除する「法面排水工」
この中でも法面排水工についてまとめます。
目次
法面保護工における法面排水工の方法・特徴について
法面排水工は、法面(のり面)の崩壊の原因である地表水・浸透水を排除する工法です。
法面排水工の施工方法は以下のものがあります。
【法面排水工の種類】
- 表面排水工
- 地下排水工
①表面排水工
表面排水工は、法面に降った雨を排除し、隣接する集水地・沢に集まる雨水を盛土下を横断して排除する工法です。
盛土の安定性を確保し、滞水による支障がないように、盛土内に流入する降雨や融雪水を盛土外にすみやかに排除する構造としなければいけません。
特に完成後の表面排水処理に関連した崩壊が起こりやすい「雨水が集中する箇所・片切片盛土部・道路横断排水施設を設置している箇所」では、表面排水溝は必須です。
法面表面に水が流下しないように、以下の工種を施工します。
【表面排水工の工種】
- 法肩排水溝
- 小段排水溝
- 縦排水溝
- 法尻排水溝
法肩排水溝
法肩排水溝は、切土のり面より上部斜面に降った雨水・湧水を法面に流入させないように、法肩(のりかた)に設ける排水溝です。
法肩より上の部分の広さ・地形・土質・流下水量などを考慮して、設置を検討します。
排水路に集まる水量が多く、延長も長くなる場合は、法肩排水溝にU形溝(標準300mm×300mm)などの使用の検討が必要です。
地耐力によっては、軽量な樹脂製・ポリエチレン製の側溝を用いりましょう。
また、地形によっては曲げ敷設できるポリエチレン半割れ管なども検討が必要です。
水量が比較的少ない場合、コンクリートやセメントモルタルで保護します。
製品と地山が馴染まない場合は洗掘を起こすため、必要に応じて山側に芝張工、法肩排水溝の勾配の変化点にふたを置くなどを対策が必要です。
また急傾斜(10%以上)の場合は、ソケット付き製品・すべり止め付き製品を用います。
小段排水溝
小段排水溝は、法面に降った雨水等を排水するために、法面の小段に設ける排水溝で、浸食、表層崩壊等を防止を目的とします。
全小段に設置することが原則ですが、浸食の危険性が少ない軟岩などでは不施工とする場合もあります。
小段排水溝はプレキャストU形側溝によるものとし、断面はU-300Aを目安とて、高さ5mごと、幅1.5m、勾配5%を標準に設置されます。
法長が短い場合・下方に保護工が施工されている場合などは、法面と同じ方向に勾配をつけます。
小段排水溝の掘削が困難な箇所は、小段に10%の横断勾配をつけ、10cm厚の張コンクリート・シールコンクリートを施工する場合もあります。
縦排水溝
縦排水溝は、法肩排水溝・小段排水溝等に集水した水を速やかに区域外に排出するため、法面沿いに設ける排水溝です。
縦排水路と横排水路の連結点・屈曲点・勾配急変点には、集水桝(導水水抜)を設置し、排水が溢れないように注意します。
縦排水溝は、表面排水工の要であるため、設置の際には細心の注意が求められます。
【縦排水溝の基本基準】
- 小段延長が100mを超える場合に、設置する。
- 配置間隔は20mを標準として、やむをえない場合最大でも100mで設置する。
- 地形的にできるだけ凹地を選定し、水の集まりやすい箇所で設置する。
- 鉄筋コンクリートU形溝、半円ヒューム管、鉄筋コンクリート管、コルゲート管、塩ビ管などが用いられる。
- 盛土区間は縦排水管、切土区間は土砂部は縦排水管、岩部はプレキャストU形側溝を使用する。
【排水溝設置基準】
- U形溝はU-300Aを基準として、ソケット付き、継目をモルタルで塞ぎ、約3mごとにコンクリートや杭などのすべり止めを設置する。
- 排水溝周辺は、コンクリートで保護し、洗掘、草のたれ込みによる通水阻害等を防止する。
- 水路長が長い場合には、水路の安定を図るため、水路長20~30mごとに帯工などを設置する。
- 勾配が1:1より急な所・のり尻から1~2m区間、勾配の変化点などの縦排水路は跳水のおそれがあるため、蓋付にします。
【集水桝設置基準】
- 縦排水路と横排水路の連結点・屈曲点・勾配急変点には、集水桝(導水水抜)を設置します。
- 桝・その前後の縦排水溝にはふたを設置するなどして、跳水による洗掘を生じないよう考慮します。
- 深さ15cm以上の土砂だめを設け水勢を減じさせる構造とし、必ずふたを設ける。
法尻排水溝
法尻排水溝は、縦排水路・擁壁工・斜面に降った雨水等を排水するために、法尻部に設ける排水溝です。
法尻排水溝にはU-300Aを基準として使用し、法面側には集水孔を設けて排水能力をあげます。
不同沈下・隆起を防ぐために、根入れ深さは0.5m程度にするのが一般的です。
②地下排水工
地下排水工は、基礎の安定性を図るために、盛土内に浸透してくる水を排除する工法です。
盛土の安定性を確保するために、地下排水溝・水平排水層等の地下排水工を設け、地下水・湧水・浸透水を盛土外に排出できるような構造としなければなりません。
地下排水工は、浸透水を地中で排除するため、以下の工種を施工します。
【地下排水工の工種】
- 地下排水溝
- 水平排水孔
- 水平排水層・基礎排水層
- 法尻工・法尻保護工
地下排水溝
地下排水溝は、地下水位を低下させるため、地表近くの地下水・湧水・浸透水を集めて排除する排水溝です。
集水管を設ける場合、Φ300mm以上とし、U字谷では2本以上、V字谷では1本以上を、凹地に設置します。
特に以下の場合は、地下排水溝の設置を検討します。
- 切盛り境(縦断・横断方向)
- 凹地(盛土で埋められる沢、谷部)
- 埋土箇所底部(ため池)
水平排水孔
水平排水孔は、法面浸食防止を目的に、法面の湧水を排除するために設けます。
水平排水孔の長さは一般に2m以上とし、ボーリングにより削孔し、ストレーナー加工を施した排水管を挿入します。
ボーリングは、帯水層へ上向きに5度程度で削孔する。
水平排水孔口は排水により洗堀されやすいので、ふとんかご等による保護が必要になります。
水平排水層・基礎排水層
水平排水層・基礎排水層は、盛土内の間隙水圧を低下させるため、浸透水を排除するために設けます。
水平排水層・基盤排水層を設置する必要があるのは、
- 長大法面の高盛土
- 片切り片盛り
- 切り盛り境部
- 沢を埋めた盛土
- 傾斜地盤上の盛土
などの条件の場合です。
含水比の高い土で構築すると、間隙水圧が上昇し法面のはらみ出しが生じることがあるので、透水性の良い材料で水平排水層を敷設し、間隙水圧を低下させて盛土の安定を高めます。
地下水位の高い箇所に盛土を構築する場合、特に雨水や浸透水の影響が大きいと想定される盛土では設置する必要があります。
サンドマット工法・水平ドレーン工法など平地で施工する際の注意点と大きく変わりはありません。
水平排水層・基盤排水層の施工条件は以下の通りです。
【水平排水層・基盤排水層の条件】
- 砕石・砂
- 透水係数:k≧1×10-2~10-3cm/s、かつ盛土材料の透水係数の100倍以上を有する良質材料
- 排水勾配:4~5%程度
- 層厚:30cm 以上
- 長さ:小段高さの1/2以上
- 最下段は、吸出し防止材の設置、ふとんかご等による末端の保護
法尻工・法尻保護工
法尻工・法尻保護工は、排水と同時に法尻(のりじり)崩壊の防止のため、傾斜地盤上の高盛土・湧水の多い場合では地下排水溝等と併用して設置します。
法尻工はとしては、ふとんかご・蛇籠(じゃかご)工等も用いられる。
面積の狭い法面では、ふとんかご・じゃかご工等ののり尻工を設置することで、地下排水溝を兼ねることができます。
法面排水工における設計上の注意点
法面排水工は、以下の効果を求めることを目的とします。
- 法面を流下する表面水による法面の侵食・洗掘の防止
- 浸透水による法面を構成する土のせん断強さの減少
- 間隙水圧の増大から生じる崩壊を防止
排水施設は、現地条件に応じて、隣接する切土区間や流末の施設等と一体として計画設計します。
【法面排水工検討事項】
- 盛土材料の特性
- 表層水が局部的に集中して流れる箇所
- 側溝の選定
盛土材料の特性
砂質土を用いた場合、以下の崩壊に注意が必要です。
- 表面水が集中し表層崩壊
- 傾斜地盤上の盛土・沢部を埋めた盛土で、浸透水による間隙水圧の上昇・パイピングによる崩壊
対策として、法面排水を十分整備し、基盤排水層・水平排水層を設置するなど、浸透水を速やかに排水します。
著しく軟弱な粘性土においては、間隙水圧消散や強度増加のため、水平排水層を設置が必須です。
表層水が局部的に集中して流れる箇所
局部的に表面水が集中して流れる箇所においては、想定以上の流量により盛土の洗掘・崩壊が生じる場合が多いです。
そのため集中する場所ごとに、以下のような対策を取ります。
- 表面排水工の合流部・屈曲部:跳水などによる洗掘が生じるため、設計断面の拡大や蓋の設置
- 排水溝の外側:洗掘防止のため、張りコンクリート・張石による保護
側溝の選定
側溝の型式は、上記の採択基準に則って、経済性を考慮した上で選択します。
仮設で設置する場合にのみ素堀り側溝を特別採用されることがあります。
地耐力によっては、軽量な樹脂製・ポリエチレン製の側溝を用いることを考え、U字側溝だけでなく、地形によっては曲げ敷設できるポリエチレン半割れ管なども検討が必要です。
また縦断勾配2.5%以上・延長100m以上ある区間で、盛高が高い区間などのり面が洗掘されるおそれのあるところには、導水縁石側溝を設置の検討が必要です。
まとめ
法面保護工の「法面排水工」についてまとめました。
他の法面保護工の詳細については、「法面保護工の施工方法 ~植生工・構造物工・法面排水工~」をご参照ください。
紹介させて頂いた知識は土木施工管理技士の試験にも出てくるほど重要な知識です。
勉強に使用した書籍をまとめていますので、ご参照ください。