パーマカルチャー(Permaculture)とは、永続的な循環型農業で人と自然が豊かになる関係づくりを行うためのデザイン手法です。
ビル・モリソンとデビット・ホームグレンによって提唱され、Permanent Agriculture(永続的農法)、Permanent Culture(永続的暮らし)からきている造語です。
持続可能な開発目標(SDGs)で、持続的な食糧生産について考えなければならないことなどから、循環型有機栽培の一つの手法としても取り上げられるなど、近年注目されている農業手法です。
システム思考・デザイン思考は
- 3つの基盤
- 3つの倫理
- ビル・モリソンの「10の原則」
- デビッド・ホルムグレンの「12の原則」
によって成り立っています。
今回は、ビル・モリソンの「10の原則」についてまとめます。
目次
ビル・モリソンの「10の原則」

ビル・モリソンの「10の原則」は以下の通りになります。
ビル・モリソンの「10の原則」
- 多様性
- エッジ効果(接縁効果)
- 多機能性
- 重要機能のバックアップ
- 小規模集約システム
- 効率的なエネルギープランニング
- 生物資源の活用
- 繋がりの良い配置
- エネルギー循環
- 自然遷移の加速
パーマカルチャーが日本に導入されたのは、1990年にビル・モリソン本人が開いた「パーマカルチャー・デザイン・コース」であったため、ビル・モリソンの「10の原則」がデビット・ホルムグレンの「12の原則」よりも日本では普及しています。
①多様性

多様性とは、パーマカルチャーでは、モノカルチャー(単一作物栽培)でなく、「多種作物栽培」を実施することです。
出荷時期・病虫害対策などの面だけでなく、自給の場合の栄養バランスの面からも多種作物栽培が好まれます。
多様性は安定につながりますが、構成要素を多く入れるだけの多種ではなく、種間の良い相互作用が働くように調整し、協調的な関係を築けるようにデザインします。
コンパニオンプランツの関係を利用し、集団的に栽培します。
また、自然と人類の間での機能・相互作用の多様性も大事で、様々な関わり方が求められます。
同一作物を栽培するのに1つの方法ではなく、複数の方法を用いて実施します。
コンパニオンプランツを用いた自然菜園については、『1m2からはじめる自然菜園』という書籍でしっかりまとめられていたので、そちらを読んでみてください。
②エッジ効果(接縁効果)

エッジ効果(接縁効果)とは、異なる環境が接する縁では豊かな生態系が形成されることです。
異なる環境同士の資源を利用することができるので、生産性が高く、接縁独特の種・生態系も存在します。
接縁が多くなると、生産性が増すばかりではなく、緩衝帯の役割を果たし、農地を守る役割も果たします。
③多機能性

多機能とは、システムの中の構成要素ができるだけ多くの機能を発揮できるように選択し配置することです。
鶏を適切な場所に放ち自然に行動させれば、落果・害虫などを食べつつ、地面を引っ掻いたり砂浴びすることで除草・耕起し、糞が肥料になります。
動植物だけではなく、家屋にも多機能性を求め、土間やサンルームを苗床などに利用するなど工夫します。
要素が持つ特徴を理解して、様々な形で活用できるようにデザインすることが大事です。
④重要機能のバックアップ

重要機能のバックアップとは、水・食物・エネルギー・防火など生命に関わる重要な機能は、複数の手段で確保することです。
- 水:水路や自然池以外にも、低湿地・井戸・貯水池など
- 食物:地域に即した品種を生産することが大事ですが、天災に強い品種を育てる・保存食を生産するなど
- エネルギー:太陽光を使う場合には、雨・曇りの日で発電がうまくいかないこともあるため、薪による温熱活用ができる設備設置など
- 防災:蓄電池などに太陽光の電力を貯めておく、防火帯・防風林の設置など
⑤小規模集約システム

小規模集約システムとは、土地全体の空間と時間を余らせないように、手道具と小さな機械で栽培できる小規模農園のことです。
集約的菜園を目指し効率化を図るだけはなく、高密度に植えることで雑草の侵入・地表の乾燥を防ぐこともできます。
エネルギー生産や節約に工夫をして、最も有効活用できるようにデザインしていきことが必要です。
空間と時間を余らせないように、植物の重層・時間の重曹の考え方を深く理解する必要があります。
植物の重層
森の中では、日光要求量・水分要求量などの生育条件に合わせて層を形成しています。
生態学では「地衣類・草類・低潅木類・亜高木類・高木類」と分類しますが、パーマカルチャーはこれにツタ類・根菜類を加えて、空間を7層に分け、より高度に棲み分けをします。
これに見習って果樹・草類を重層的に植えることにより、生産性の高い集約システムをつくり出すことができる。
時間の重層
先駆植物(マメ科植物)、果樹苗、ツル性作物、防風林、地表被覆植物、一年草の草まで、自然遷移で現れるあらゆる作物を同時に植えます。
それにより、初めから多くの収穫物を得ることができる。
⑥効率的なエネルギープランニング

効率的なエネルギープランニングとは、訪問頻度・作業頻度に応じて、植物・動植物飼育場・建物などを適切な地帯や地域に分けて適切に配置することです。
三つの観点からエネルギーの流れを計画します。
- ゾーニング(区域計画)
- セクター(区分計画)
- スロープ(高度計画)
ゾーニング(区域計画)
- 第0エリア:活動の中心、家
- 第1エリア:毎日利用するエリア
- 第2エリア:定期的な管理が必要なエリア
- 第3エリア:定期的な管理が不必要なエリア
- 第4エリア:管理せず収穫のみする里山エリア
- 第5エリア:人の手の入らない荒野・原野・森林地域
全体に対する計画は、訪問頻度に応じて構成要素をゾーニングする「ゾーン計画」が用いられます。
毎日訪れる必要のある要素(畑・鶏小屋など)は近くにおき、頻繁に訪れない要素(果樹園・雑木林など)は離れたところに置くように努めます。
移動の時間・エネルギーを無駄にしないよう効率的に管理できるため、良い環境が維持しやすくなるでしょう。
活動の中心が2つ以上ある・地形的制約があるなど、理想通りにはいかないことが多く複雑になることが多くなります。
実際にどんなものが配置されるかは以下の通りです。
- 第0エリア:家・納屋
- 第1エリア:毎日訪れる家庭菜園・コンポスト・燃料置き場・作業場
- 第2エリア:小さな果樹・世話が必要な動物・防風林・池・家畜小屋
- 第3エリア:世話の必要ない果樹・牧草・肉用家畜・植林・米や麦などの穀物類・防風林
- 第4エリア:山菜・きのこ・材木となる樹木・放牧地・狩猟
- 第5エリア:荒野・原野・森林
セクター(区分計画)
横断的な計画は、地形・気象条件から入ってくる天然のエネルギーを上手に使えるように配置する「区分計画」が用いられます。
太陽光・風・湿度を考慮し、エネルギーの取捨選択を行います。
夏はそよ風がが入るように、冬は暖かい太陽の光が取り込めるように、小川のせせらぎが聴けるように、必要なエネルギーを誘導します。
逆に、夏の日差しが遮れるように、冬の寒い風が入ってこないように、騒音が聞こえないように、必要ないエネルギーを遮断します。
スロープ(高度計画)
縦断的な計画は、重力を用いた水管理・空気の流れが活用する「高度計画」が用いられます。
高いところで貯水池・タンクなどで水を貯めることで、ポンプなどを使わずに落差を利用して水を使え、電気を使わずに利用できます。
逆に家よりも低い位置に水田・池を作ることで、日中に吸収した熱を夜に吐き出して、家を温めることができます。
⑦生物資源の活用

生物資源とは、人間にとって有益な動植物のことです。
化石燃料・農薬・化学肥料の代わりに、動植物の特性や機能をフルに活かすことで、省エネ・農作業の軽減・環境への負荷の軽減をを図ります。
生物資源の活用方法として
- 燃料供給
- 肥料供給
- 耕起
- 害虫駆除
- 養分のリサイクル
- 生育環境の向上
などが挙げられます。
⑧繋がりの良い配置

繋がりの良い配置とは、構成要素を効率的に機能させるために、要素と要素を関連付けて、適材適所に配置することです。
関連付けるために、ある要素のアウトプットが他の要素のインプットであるように配置します。
また、省エネの観点から、同じ動線上に要素が来るように配置します。
例えば、家から家畜小屋の間に、家畜の餌となる野菜が取れる畑を配置するようにします。
自然環境においては、エコロジカルネットワーク(ビオトープネットワーク)という考えがあるのでそちらを学んでみると良いでしょう。
参考ページ:「生物生息空間の形態・配置の6つの原則」について
⑨エネルギー循環

エネルギー循環とは、エネルギー・水・栄養素の流出を防止し、中で循環させるようにデザインさせることです。
「持ち込まない、持ち出さない」がキーワードです。
人間が排出するゴミなどがエネルギー循環の末端にならないように還元できるかが重要です。
人間が産み出すゴミ・無駄は生産的に利用・循環されず、持続可能性が乏しいです。
そのため、ゴミ・無駄を出来る限り出さないように、また有効活用・再利用できるように行動しなければなりません。
例えば、暮らしの中で生ゴミは生じてしまいますが、生ゴミがなるべく出ないような食材の使い方、生ゴミが出てしまってもコンポスト化して肥料にするなど対処します。
⑩自然遷移の加速

自然遷移(植生遷移)とは、その地域の気候風土地形等に適した植物は時間と共に成長し変化(遷移)し、最終的に安定した森のような状態(極相)になります。
従来の農業は、自然の遷移を阻止する土地の活用方法です。
パーマカルチャーでは、自然遷移に任せてそれを活用し、さらに自然遷移を加速させます。
- すでに生えている雑草を利用する
- 育ちやすいものを植える
- 土の有機質を増やす
- 希望の植物に置き換える
植生遷移については下記記事で詳細にまとめていますのでご参照ください。
参考ページ:植物群集が極相へと変化する「植生遷移」について
まとめ

今回は、ビル・モリソンの「10の原則」についてまとめました。
もう1人の提唱者であるデビッド・ホルムグレンの「12の原則」と比較しながら、見てみるとパーマカルチャーについて理解が深まると思います。
12の原則については、下記記事にてまとめていますのでご参照ください。
書籍でパーマカルチャーについて勉強できますので、おすすめの本を下記記事にてまとめていますのでご参照ください。