農業農村整備事業(NN事業)は、農業の生産力向上・農村の生活水準向上などに資するために、多岐にわたる事業があります。
国民・消費者の要請・期待に応えるため、農業農村整備事業は計画的・総合的に実施されています。
農業農村整備事業とはどのような事業なのか、簡単に説明させていただきます。
農業農村整備事業の目的
「食料・農業・農村基本法」において、農業農村整備事業は以下の基本理念の実現を図るための施策です。
- 食料の安定供給の確保(第2条)
- 多面的機能の確保(第3条)
- 農業の持続的発展(第4条)
- 農村の振興(第5条)
また、「土地改良法」は、土地改良事業を行うための手続きを定めた法律です。
土地改良法の目的は第1条1項に記載されている通り、「農用地の改良、開発、保全、および集団かに関する事業を適正かつ円滑に実施するための必要な事項を定めて、農業生産の基盤の整備および開発を図り、もって農業の生産性の向上、農業総生産の増大、農業生産の選択的拡大および農業構造の改善に資すること」とされています。
2001年の法改正まではここまでの目的でしたが第1条2項で、「その事業は、環境との調和に配慮しつつ、国土資源の総合的な開発及び保全に資するとともに、国民経済の発展に適合するものでなければならない」が盛り込まれました。
農業基盤の整備だけではなく、多目的機能の効果発現にも焦点が当てられています。
農業農村整備事業の主体
農業農村整備事業(NN事業)は、事業規模・事業内容・必要な技術・費用負担などが異なるので、これらに応じて事業の実施主体も変わります
事業主体には以下のものがあります。
- 国(農林水産省):国営事業
- 機構(独立行政法人水資源機構・独立行政法人森林総合研究所森林農地整備センター):機構営事業
- 都道府県:都道府県営事業
- 市町村・土地改良区:団体営事業
以降で農業農村整備事業のメニューについて記載しますが、事業主体によって様々な事業名・事業内容・事業種別がありますので、主体によって異なることはご了承ください。
農業農村整備事業の内容
農業農村整備事業は、農家の申請・同意・費用負担を基本原則として実施されます。
地元農家の申請と同意を基本とし、地域の合意を得られたものについて国と地方との明確な役割分担の下、効果的かつ円滑に実施しています。
また、事業の採択前から完了後に至るまで、事業評価を体系的に実施し、必要に応じて事業の見直しを行っています。
農業農村整備事業は、「農業生産基盤の整備・保全」と「農村整備」に大きく分けることができます。
「農業生産基盤の整備・保全」は、国民に対する食料の安定供給・農業生産性の向上・需要の動向に即した農業生産の再編・経営規模拡大等農業構造の改善に資するための基盤整備、農村地域での災害を未然に防止して農地・農業用施設の保全を図るための農地防災整備を行います。
「農村整備」は、生産基盤の整備と一体的に生活環境を整備して快適で活力ある農村地域の形成に資するため、農業集落排水施設の整備・農村の総合的整備・中山間の総合的整備を行います。
農業農村整備事業の内容
【農業生産基盤の整備・保全】
- ①用排水施設の整備
- ②農地の整備
- ③農道の整備
- ④農地の防災保全
【農村の整備】
- ⑤農業集落排水施設の整備
- ⑥農村の総合的整備
- ⑦中山間地域の整備
①用排水施設の整備
用排水施設の整備として、ダム・頭首工・用排水路・用排水機場などの用排水施設を新設・改修を行う「かんがい排水事業」(かんぱい事業)が実施されています。
用排水施設の整備の目的は、「食料生産の基盤である農業用水の安定的供給」「洪水による農業被害を防ぐための排水」が主目的になります。
基幹的農業水利施設には、貯水池・取水堰・用排水機場・水門等・管理設備など7600箇所、基幹的水路が5万km整備されています。
水利施設の整備状況の詳細については、下記記事にてまとめていますのでご参照ください。
それら基幹的農業水利施設の多くでは老朽化が進行しており、用排水機場で75%、基幹的水路が40%が標準耐用年数を超過している状況です。
そのため、効果的に用排水施設の維持・管理・更新が必要で、ストックマネージメント・アセットマネージメントという考えが生まれ、「国営造成水利施設ストックマネージメント推進事業」「農業水路等超寿命化・防災減災事業」「水利施設等整備事業(基幹水利施設保全型・地域農業水利施設保全型」などが事業化もされています。
②農地の整備
農地の整備として、農業生産の基盤・整備・開発を実施することで、農業の生産性の向上・農業総生産の増大・農業生産の選択的拡大・農業構造の改善を図ります。
具体的なメニューとして、
- 区間整理
- 末端用排水施設・末端農道の整備
- 暗渠排水施設の整備
が挙げられます。
また、担い手・農業生産法人への農地の集積を促進するために、「経営体育成基盤整備事業」などが事業化されています。
ほ場整備事業については、下記記事にてまとめていますのでご参照ください。
参考ページ:農地整備(ほ場整備)事業について
③農道の整備
農道の整備として、農道の新設・改修を実施することで、農産物生産と流通の合理化・農村地域の生活環境の改善を図ります。
広域農道・基幹農道・一般農道の整備を実施するため、「農道整備事業」などが事業化されています。
農道の管理延長は17万kmを超え、農道を構成している橋梁・トンネル・舗装などの構造物の経年的な劣化も進行しており、農道の機能を適切に維持するために点検診断・修繕・更新などの予防保全を図っています。
④農地の防災保全
農地の防災保全として、農地・農業用施設等の災害防止・被害軽減のためのハード整備・ソフト対策を実施、農業生産の維持・農業経営の安定・国土の保全・地域の安全確保を図ります。
ハード整備では、ため池改修・地すべり対策・湛水防除が挙げられます。
ソフト対策では、災害予測や情報伝達システムの整備・ハザードマップの整備・地域の防災体制の整備が挙げられます。
これらの整備・対策をするために、「総合農地防災事業」「農地防災事業」「農地保全事業」「農村環境保全対策事業」「地すべり対策事業」などが事業化されています。
⑤農業集落排水施設の整備
農業集落排水施設の整備として、汚水・汚泥を処理する施設を整備することで、農業用用排水の水質汚濁防止・農村地域の生活環境の向上を図ります。
また、処理水の農業用水への再利用・汚泥の農地還元を行うことで、農業の特質を生かした環境への負荷の少ない循環型社会の構築に貢献します。
し尿・生活雑排水等の処理を行うための汚水処理施設の整備、汚泥のコンポスト化を行うための資源循環施設の整備を行うため「農業集落排水事業」などが事業化されています。
⑥農村の総合的整備
農村の総合的整備として、農業生産基盤・農村生活環境基盤の整備をすることで、生産環境・生活環境の向上を図ります。
農村の総合的な整備を通して、都市と農村との共生・対流の促進に寄与します。
大規模改修では手の届かない細やかな整備を実施するために、「農村総合整備事業」「農村振興整備事業」などが事業化されています。
⑦中山間地域の整備
中山間地域の整備として、中山間地域の農業生産基盤・農村生活環境基盤の整備をすることで、農業・農村の活性化を図ります。
中山間地域は国土の約7割・耕作地・農家数で約4割を占める農業の要であるが、条件不利地等整備されていない農地は多く存在します。
生産基盤の整備により、経営規模拡大・コストの低減・営農労力節減・高付加価値農業の展開・地域特産物の開発を図ります。
生活環境基盤の整備により、定住条件の改善・国土保全・環境保全・農村景観の保全を図ります。
これらの整備が一体的に実施できるように、「中山間総合整備事業」などが事業化されています。
中山間地域の詳細については、下記記事にてまとめていますのでご参照ください。
まとめ
農業農村整備事業についてまとめました。
「のうぎょうとぼく」の中では、農業土木に関する豊富な記事を書いています。
農業土木について勉強できる本については下記にてまとめていますので、ぜひご覧ください。
参考ページ:農業土木の勉強におすすめな参考書・問題集を紹介!