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日本における農業土木の歴史 〜現代〜

日本における農業土木の歴史 〜現代〜
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農業土木は、自然に存在する土・水を、農業に効率的に利用できるように発達した土木技術です。

水田農業を軸に、日本の農業の発展に大きな影響を与えました。

農業の歴史を振り返りながら、農業土木の技術進歩の遍歴を確認するため、

にわけてまとめてみました。

今回は、現代での農業土木について紹介させていただきます。

農業土木の学び場の創出

忠犬ハチ公

1918年に米騒動が起こるなど食糧の需給面に問題が生じ始めてきたことから、食糧増産生産政策が打ち出されました。

そこで、農業土木技術者育成の指導者・学び場が求められました。

指導者として、忠犬ハチ公の飼い主としても知られている「上野英三郎」は、農業土木の創始者であり、農業土木技術者育成の中心人物でした。

1921年に三重高等農林学校に農業土木学科が初めて設けられたことを皮切りに、1922年に九州帝大農学部に農業工学講座、1923年に京都帝大農学部農業工学科、1925年に東京帝大に農業土木学専修、などが設置されました。

1907年に耕地整理担当技術者を集めて発足された耕地整理研究会が発展し、1929年には耕地整理研究会が発展して農業土木学会となります。

戦後の復興と改革 〜土地改良法〜

土地改良法

戦後の復興にあたって、農業土木の開墾・開拓・灌漑排水の技術が総動員されました。

農業土木事業は、農産物の生産力を増強するためだけの技術から、防災設備・公共施設整備が実施される農村振興の根幹をなす総合開発事業へと変貌します。

1949年に土地改良法が制定されたことも契機になり、国営での土地改良事業が大きく加速することになります。

耕地改良組合と水利組合が土地改良区に一本化され、開発を進めるための集約化が行われます。

また、1950年に国土総合開発法が制定されることで、土地・水資源開発のための大規模農業用水が整備されます。

愛知用水・豊川用水などの農業開発プロジェクトが実施されています。

農業から土木へのシフト 〜農業基本法〜

農業基本法

戦後の食糧生産増産期を脱したことにより、農業土木は農業の高度化が求められるようになりました。

土地改良事業の予算科目が食糧増産費から農業基盤整備費に変更されています。

1961年の農業基本法の制定により、農業土木に求められる質が大きく変化します。

農業基本法は、農業と他の産業の生産性や所得の格差の是正を目的としています。

農業の近代化・合理化を目指し

  • 農業生産の選択的拡大や合理化
  • 農業構造改善事業への着手
  • 農産物価格の安定
  • 農産物流通の合理化
  • 農業資材の生産流通の合理化
  • 近代的農業経営者の養成
  • 福祉の向上

の施策がとられます。

60~67年に農業生産は約30%上昇し、1人当りの農業生産は年率7%の伸びを示し、生産性・農家の所得を伸ばすことには成功しました。

しかし、農家の兼業化・労働力の大幅削減等による農村の労働力が都市部へ流失して農業の担い手不足問題の引き金になり、農業の近代化・合理化によって別の問題が発生しました。

減反政策

減反政策

農業の近代化・合理化によって、昭和40年代には米の完全自給が達成されます。

しかし、1952年には栄養改善法が施行されて米偏重の是正が叫ばれ、食の欧米化も進み、主食とされてきた米は遠ざけられ、米の年間消費量は1962年に戦後最高の118.3キログラムに達したのをピークに以後年々減少に向かいます。

そのため、米の余剰が発生し、食糧管理制度に基づく政府の米買付において、買取価格よりも売渡価格が安い逆ザヤ状態が加速し、歳入が不足し赤字が拡大しました。

そのため、新規の開田禁止・政府米買入限度・自主流通米制度の導入・米の生産調整を1970年に開始しました。

政治家が農村における票田を獲得するため、米価を維持するために行われたともいわれています。

米以外の転作作物の作付けに「転作奨励金」を推奨し、大きな収入源を作ることで、積極的に転作に取り組むことによって農業構造の転換を図ろうとしました。

政府は、主食用米の生産数量目標を決め、都道府県に配分して補助金・助成金を付けました。

2017年をもってその配分を終了し、2018年からは都道府県が生産数量目標を設けて市町村に配分しています。

農振法の制定

農振法の制定

1968年に制定された都市計画法に対して、1969年に「農村振興地域の整備に関する法律(農振法)」が制定されました。

この法律では、農用地の確保や農業経営の近代化等を図るべき地域を農業振興地域に指定します。

その地域に関して、農業振興地域整備計画を定めることとし、農業上の土地利用のゾーニングを行う農業振興地域制度と個別の農地転用を規制する農地転用許可制度があります。

農業振興地域制度とは、市町村が将来的に農業上の利用を確保すべき土地として指定した区域で農地転用は禁止されています。

農地転用許可制度は、優良農地を確保するため、農地の優良性や周辺の土地利用状況等により農地を区分し、転用を農業上の利用に支障がない農地に誘導することとしています。

農業・農村における多面的機能の創出

農業・農村における多面的機能

「食料自給率の低下、農業就労者の減少・高齢化、環境に配慮した持続的な農業」などの大きな問題を抱えました。

そこで、1992年には「新しい食糧・農業・農村政策の方向」において、

  • 食料自給率の低下に歯止めをかけるための自らの国土の有効利用
  • 農業を魅力ある職業とするための効率的・安定的な経営体の育成
  • 都市と農村の共生による多様な地域社会を発展させる均衡ある国土の発展

の3本柱が示されます。

1993年の「ガット・ウルグアイラウンド農業合意」を受け、1999年に農業基本法が「食糧・農業・農村基本法」に変わり、食糧の安定供給の確保と農業・農村のもつ公益的・多面的な機能の発揮が掲げられました。

多面的機能として

  • 国土の保全
  • 水源の涵養
  • 自然環境の保全
  • 良好的な景観の形成
  • 地方文化の伝承

が挙げられています。

まとめ

歴史

今回は、現代での農業土木について紹介しました。

「のうぎょうとぼく」の中では、農業土木に関する豊富な記事を書いています。

他の時代についてもぜひ勉強してみてください。

農業土木について勉強できる本については下記にてまとめていますので、ぜひご覧ください。