法面保護工は、法面の風化・侵食を防止し、法面の安定を図るための工法です。
法面保護工は、大別すると以下の3つに分けられます。
- 植生を用いる「植生工」
- コンクリート等の構造物を用いる「構造物工」
- 法面の風化・侵食の原因である地表水・浸透水を排除する「法面排水工」
今回はこの「植生工」についてまとめてみます。
目次
法面保護工における「植生工」の方法・特徴について
植生工は、法面に植物を繁茂させ、法面浸食防止・風化抑制を図る工法です。
安定勾配が確保できない場所・植物の生育に不適合な場所以外は、法面保護工は植生工を用いてることが原則とされています。
植生工として挙げられる工法は、以下の方法です。
【法面保護工における「植生工」の種類】
- 種子散布工
- 客土吹付工
- 植生基材吹付工(厚層基材吹付工)
- 張芝工
- 筋芝工
- 植生シート・植生マット工
- 植生土のう工
①種子散布工
種子散布工は、種子・肥料・木質繊維(ファイバー)・水・安定剤に混ぜたものを、法面にポンプ・吹付ガンで吹付ける工法です。
基盤が木質繊維のみですので、吹付に使える植物は草本類に限られます。
通常の種子散布剤に加えて、土地改良剤を加えた「腐植酸種子散布工」「有機材種子散布工」などの工法も開発されています。
種子が育成するまでに時間がかかるため、法面勾配が1:1.0より緩やかな場所で使用され、種子が発芽しやすい土壌硬度は23mm未満の肥沃地・湿潤地での施工が必須です。
トラック搭載式のハイドロシーダーなどの吹付機械を使用して、大量の用水を加えた低粘度スラリー状の材料を、ポンプ圧送により厚さ1㎝未満で散布されます。
混ぜ込むファイバーは、浸食防止のために用いられ、木質繊維・粘着剤・被膜材などが用いられるのが一般的です。
種子散布工は、ハイドロシーダにより施工性が高く、植生工で最も安価に施工が可能です。
最も用いられている工法なのですが、植物の初期生育までの侵食防止効果が低く、雨などの影響により吹付資材が流されてしまう危険性があるので注意しましょう。
そのため、むしろ・繊維網などの補助材料を用いて、侵食防止対策を図るのが基本です。
定着すればネットの必要がないので、分解性の高い資材を使うと環境に配慮できます。
②客土吹付工
客土吹付工は、種子肥料・土・水を混ぜたもの(種肥土)を、モルタルガン・エアーシーダーなどで圧縮空気を用いて、1cm~3cmの厚みで吹付ける工法です。
種子の発芽率が向上し、法面表面の浸食防止対策にもなる「緑化基盤材(バーク堆肥)」がよく用いられます。
基礎工には、金網張工として繊維網が使われるのが一般的です。
1:0.8より緩勾配に適しており、安定して緑化できます。
使用植物は外来や在来の草本類だけではなく、木本類の種子も使用できる点が種子散布工と違います。
土壌硬度が高くて種子散布工では発芽できない礫質土でも施工可能なのも、客土吹付工の特徴といえます。
③植生基材吹付工(厚層基材吹付工)
植生基材吹付工(厚層基材吹付工)は、基盤材・種子・肥料・土・接合材・水を混ぜたものを、モルタルガン・ポンプなどを用いて、3cm~10cmの厚みで吹付ける工法です。
基盤材によって、パーク堆肥やピートモスなどの有機質基材を主体として厚さ10cm程度で吹付ける「硬質基盤吹付工」(有機質系)、土壌・繊維を主体として厚さ5cm程度で吹付ける「軟質基盤吹付工」(土砂系)に分けられます。
ラス金網を補助材として張り付けるのが一般的です。
根が張りにくい岩盤等では「硬質基盤吹付工」、礫質土では「軟質基盤吹付工」が用いられます。
基盤をしっかり施工するので、法面勾配が1:0.5より緩勾配(木本類は1:0.6)で使用され、土壌硬度は23mm以上の岩盤層・崖錐・土砂などでの侵食を受けやすい場所での施工ができます。
発芽・生育までの時間が長くかかる点には注意が必要です。
種子散布工・客土吹付工・植生基材吹付工の違いについて
【種子散布工】 | 【客土吹付工】 | 【植生基材吹付工】 | |
緑化目標 | 草本類 | 草本類・木本類 | 草本類・木本類 |
基材 | 木質繊維 | 土・パーク堆肥等 | 土・パーク堆肥等 |
仕上げ厚さ | 1cm未満 | 1〜3cm | 3〜10cm |
適応土質 | 土壌硬度 23mm以下 土砂 | 土壌硬度 23mm以下 土砂・礫質土 | 土壌硬度 23mm以上 岩盤 |
適応勾配 | 1:1.0より緩勾配 | 1:0.8より緩勾配 | 1:0.5より緩勾配 (木本類は0.6) |
耐降雨強度 | 10mm/hr | 10mm/hr | 10〜100mm/hr |
耐浸食性 | 小 | 中 | 大 |
播種工による3工法「種子散布工・客土吹付工・植生基材吹付工」を紹介しましたが、使用できる条件の違いが分かりにくいので1つにまとめました。
施工場所の条件によって使用する工法が変わります。
播種する品種は周辺植物群落に合わせて計画され、必要土壌厚等の条件によって施工方法も大きく異なるため、工法選択には十分な注意が必要です。
④張芝工
張芝工は、切り芝(ソッド)を人力にてベタ張りで隙間なく張り付け、法面全面に密着するように張り付ける工法です。
密度によって張り方が異なりましたが、法面保護工では洗掘を防止するため「べた張り」が基本になります。
- 100%:ベタ張り
- 70%:目地張り
- 50%:市松張り
使用する芝は、野芝・高麗芝・切芝・ロール芝が用いられ、法面に目串などで固定します。
種子散布工など施工後の種子発芽後に遅れて保護効果を発揮するのに対して、張芝工は完成と同時に保護効果を発揮するのが特徴です。
侵食されやすい環境の法面保護に適しており、特に盛土部で使用されます。
張芝工が適用できる勾配は、法面勾配が1:1.5より緩勾配が最適です。
張芝工は、人力でベタ張りするので費用が高く施工性が悪いため、対象面積が大きくできません。
ノシバ自体も高くなっているので、同等以上の効果があるもので代替されることが多いです。
⑤筋芝工
筋芝工は、盛土法面の土羽打ち際に野芝を水平に一部筋状に挿入する工法です。
土羽打ちは、2/3が土に埋まるように野芝を挿入する必要があります。
筋芝工が適用できる勾配は、法面勾配が1:1.5より緩勾配が最適です。
野芝は育成が遅く、保護効果発現が遅れ、筋間にある土砂が流出する恐れがあります。
そのため、砂質土には適さないなど、施工条件が厳しいです。
とても地表水に対して弱く、切り芝を用いるので小面積しか施工できないため、この施工方法を用いる例が少なくなっています。
張芝工・筋芝工の違いについて
【張芝工】 | 【筋芝工】 | |
緑化目標 | 切芝・ロール芝 | 切芝 |
補助材料 | 目串 | なし |
適応土質 | 粘性土・砂質土 | 粘性土 |
適応勾配 | 1:1.0より緩勾配 | 1:1.5より緩勾配 |
耐浸食性 | 中 | 小 |
植栽工で切芝を用いる2工法「張芝工・筋芝工」を紹介しましたが、使用できる条件の違いを1つにまとめました。
筋芝工よりも張芝工の方が施工性も良く、安定的な効果も得られやすいので、筋芝工が選択されることはあまりありません。
⑥植生シート・植生マット工
植生シート工・植生マット工は、種子を装着したシート・マットで法面を保護する工法です。
種子散布の効果発現が遅い弱点を、マット・シートにすることで保護効果の早期発現を可能にします。
また張芝工と違い、設置後に種子が発芽することで、法面接着が良好になり、安定的な法面保護が行われます。
植生シート工
植生シート工は、植生シートを法面に止め釘などでマットを地面と密着固定させる工法です。
植生シートは、「わら・むしろ・不織布・化繊ネット・水溶性紙」などでできています。
植生シート工が適用できる勾配は、法面勾配が1:1.5より緩勾配が最適です。
比較的勾配が急な盛土部でも表面浸食の防止効果がありますが、少しでも浮いているとそこから浸食が起こるため、法面を十分平滑に整形するなど施工方法に留意しなければなりません。
植生シートに活着させれる種子・肥料・生育基盤材が限られており、肥料袋などはつけることができない点には注意が必要です。
植生マット工
植生マット工は、植生マットを法面にアンカーピンや止め釘などでマットを地面と密着固定させる工法です。
施工直後から法面全体で大きな耐浸食性効果が期待できるのが特徴で、切土法面で用いられる施工方法になります。
植生マットは植生シートに比べて厚みと重さがあるため、土壌硬度27mm以下の粘性土・硬度23mm以下の砂質土、法面勾配が1:0.8より緩勾配が最適です。
植生マットの材料は、「厚みのある不織布・紙・わら・すだれ・フェルト」などが用いれます。
植生マットには、種子・肥料・生育基盤材がついており、一定間隔に肥料袋がついているのが一般的です。
植生シート工・植生マット工の違いについて
植生シート工 | 植生マット工 | |
適応勾配 | 1:1.5より緩勾配 | 1:0.8より緩勾配 |
補助材料 | 肥料袋NG | 肥料袋OK |
植生シートは肥料袋を補助材料として使う強度がないが、植生マットよりも軽いので施工性は良く、勾配がキツイところでも施工可能です。
植生マットは肥料袋があるので重量があるのが難点ですが、植生環境・土壌環境が多少悪くても植生保護の効果発現が早くなります。
⑦植生土のう工(植生土嚢工)
植生土のう工(植生土嚢工)は、種子・肥料・土壌を詰めた土のう袋を、法面に掘った水平な溝・法枠内に固定する工法です。
従来の法枠工(のり枠工)では、「法枠の角で樹木が損傷する」「法枠の下部が天水が入りづらく乾燥する」「法枠で植生の自然侵入が阻害される」などの問題がありました。
土のうにすることで、地盤との馴染みが良く、種子が流出する恐れもありません。
種子発芽前の法面保護効果の早期発現を可能で、種子発芽後には法面接着が良好になり安定性が増した法面保護が実施できます。
現場発生土を用いる場合もありますが、植生の生育に適した土壌に調整した土壌を用いりましょう。
植生土嚢工は1:0.8より緩い切土法面に適しており、安定した緑化が可能です。
植生工における設計上の注意点について ~植生事前調査~
植生工において、重要になるのは植生事前調査です。
植生工は植物を用いるため、気象条件などにより、同じ施工方法でも効果が異なります。
そのためどの工法が使用できるのか、事前調査が必要です。
事前に調査する項目として、以下の3つが挙げられます。
【植生事前調査の項目】
- 周辺環境
- 気象
- 法面の物理性
周辺環境の調査
周辺の植物群落の調査には、各群落1地点ずつの調査枠(コドラート)を設け調査を行います。
「被度」については、ブラウン-ブランケの全推定法を用いることが一般的です。
「被度」とは、コドラート内で各植物種が地上を被う割合を表したもので、種組成の把握ができます。
「被度」と合わせて、「群度」を調べておきましょう。
群度は優占度の大小とは関係なく、コドラート内における植物種の配分状態を表したものです。
最近は鹿の食害に注意するため、大型動物の生息状況についても欠かせません。
植生使用予定箇所において、センサーカメラによる行動調査・フィールドサイン調査を行いましょう。
気象の調査
気象条件に適した種を決定する必要があるため、日照・降水量・気温の調査が必要です。
低温・高温下での施工は植生の育成の妨げになるため、施工時期を明確に設定して、悪条件化での施工を避けます。
また凍害などの侵食を受けやすいため、降水量の中でも特に積雪に関しては注意が必要です。
湧水・集水箇所は、施工後の侵食に大きく関係してくるため、降水時の水流れの調査など詳細な気象関係にも注意を向けましょう。
法面の物理性の調査
法面の物理性の調査として土壌硬度・土壌酸度が主に調査されます。
土壌硬度の測定には、山中式土壌硬度計が用いられるのが一般的です。
一般的に粘性土で23mm、砂質土で27mm以上の場合、植物の生育が困難になります。
土壌酸度の測定には、ガラス電極式pH計を用いてpHを測定する方法が一般的です。
一般的に土壌酸度がpH4~8から外れる場合,中和処理等の対策が必要になります。
まとめ
法面保護工における植生工の方法・特徴についてまとめました。
植生工の方法として紹介したものは、以下の工法です。
【植生工の種類】
- 種子散布工
- 客土吹付工
- 植生基材吹付工(厚層基材吹付工)
- 張芝工
- 筋芝工
- 植生シート・植生マット工
- 植生土のう工
法面保護工は植生工以外にありますので、他の施工方法について詳細に知りたい方は、こちらをご参照ください。
参考ページ:法面保護工の施工方法 ~植生工・構造物工・法面排水工~
紹介させて頂いた知識は土木施工管理技士の試験にも出てくるほど重要な知識です。
勉強に使用した書籍をまとめていますので、ご参照ください。