生態系は種間の相互作用で成り立っているため、簡単に言い表したり表現したりすることが困難です。
少しでもこの生態系を簡便に示す工夫として、「食物連鎖・栄養段階・生態ピラミッド」を用いて表現します。
どうやって「食物連鎖・栄養段階・生態ピラミッド」を用いるのかまとめます。
目次
食物連鎖(food chain)
食物連鎖(food chain)とは、生態系を食物網の「捕食ー捕食」関係に着目したモデルです。
食物連鎖には、生きた植物から始まる生食連鎖と、植物遺体から始まる腐食連鎖があり、これらが相互に関係し合いながら全体として食物網が形成されているのです。
地球の中での循環「スローサイクル:地球科学的循環」と対になる、物連鎖で生物の中を流れる循環を「ラピットサイクル:生物的循環」とも表現されます。
近年では、食物連鎖のような生物群集の単純な「捕食ー被食」関係ではなく、網の目のように繋がっている食物網(food web)と呼ばれる状態が重視されています。
食物連鎖の長さ制限(トポグラフィー網の一般則)
食物連鎖の長さは、「トポグラフィー網の一般則」に従う傾向です。
「トポグラフィー網の一般則」とは、食物連鎖の長さは3連鎖が平均で、5連鎖を超えることはほとんどないことを示しています。
食物連鎖が制限される要因としては、以下の点が挙げられています。
- エネルギー制約仮説:上位栄養段階ほど利用可能なエネルギーが減るため
- 生産性仮説:植物の一次生産性が足らないため
- 動的制約仮説:連鎖が長くなると系が不安定になるため
- 生態系サイズ仮説:生態系のサイズに限りがあるため
食物連鎖が切れるとどうなるか?
生態系は食物連鎖による「捕食ー被食」の関係によって、正常に個体数が調整・維持されています。
食物連鎖の頂点に立つ大型哺乳類・鳥類は、キーストーン種・アンブレラ種などと表現され、生態系において重要な存在です。
オオカミを絶滅させてしまった日本では、オオカミの餌であるシカが急増し、シカの食害が多発して森が荒れています。
生態系がどのような個体数調整を実施しているかは、下記記事にてまとめていますのでご参照ください。
栄養段階
栄養段階とは、食物連鎖でつながっている生態系の動植物を、エネルギー循環・物質循環における「生物の役割」に着目したモデルです。
栄養段階は大まかに以下の段階に分けることができます。
- 第一栄養段階:太陽エネルギーを利用して無機物から有機物を合成する生産者(植物)
- 第二栄養段階:生産者を直接食べることができる一次消費者(草食動物・昆虫)
- 第三栄養段階:草食動物を食べる二次消費者(肉食動物)
- これらの遺骸・排出物(デトリタス)を分解する分解者
日本での例としては、タカなどの猛禽類を第三栄養段階の頂点に、ノウサギ・ノネズミなどの第二栄養段階、下草などの第一栄養段階などの要素構成を挙げることができます。
各段階が捕食ー被食の関係で、他の栄養段階の捕食者に次々の影響を与えることを「カスケード効果(栄養段階カスケード現象)」といいます。
各栄養段階の生物個体調整について「HSS仮説」「フレットウェル仮説」が挙げられます。
HSS仮説
HSS仮説は、生物群を4つの段階に分け、上位の栄養段階が捕食によって下位の栄養段階の個体数調節要因になっていることをトップダウン調節モデルです。
- 植物
- 植食者
- 肉食者
- 分解者
肉食種が植食者を捕食して個体調節してるから、地球が植物に覆われていると主張します。
フレットウェル仮説
フレットウェル仮説は、HSS仮説を改善して生物群の一次生産力の効果を取り入れて、トップダウン調節・ボトムアップ調節を混合したモデルです。
トップダウン調節で下の個体を減らすが、さらにボトムアップ調節下の個体の個体を増すことに着目しました。
単純な捕食ー被食関係でのみ仮定しており、複雑な群衆構造を想定していない点は注意が必要です。
生態ピラミッド(ecological pyramid)
生態ピラミッド(ecological pyramid)とは、食物連鎖・栄養段階において上位になるほど個体数・生物量・生産量が減少することに着目したモデルです。
個体数・生物量・生産量の3種類のピラミッドが作られ、単位面積あたりの重量である「現存量」が主に用いられます。
植物が光合成によって作り出す現存量を総生産と呼び、地球上の生物の現存量の約40%を占めています。
総生産から呼吸量を差し引いた残りを純生産と呼び、生態系ピラミッドの土台になっています。
生態ピラミッドの頂点から見る「生物濃縮」の問題
生態ピラミッドにおいて、上位になるほど収斂していくので、「生物濃縮」が生じます。
生物濃縮は、農薬・重金属などの生物に有害な物質が上位種に濃縮されていくことです。
レイチェル・カーソンの『沈黙の春』によるDDTの生物濃縮問題を皮切りに、水銀中毒・カドミウム中毒・マイクロプラスチックなどが問題になり表面化している例として挙げられます。
生物にとって害がある場合だけでなく、フグ・イモリ・貝が保有する毒についても生物濃縮の結果であり、益にもなることもあります。
まとめ
「食物連鎖・栄養段階・生態ピラミッド」についてまとめました。
生態学についてより深く勉強するのに、おすすめの書籍をまとめていますのでご参照ください。
また、「生物多様性・生態系とは何か」を子どもと簡単に勉強できる教材をまとめていますので、興味があればご参照ください。