地下水位低下工法は、地盤中の地下水位を低下させることにより、有効応力を増加させて軟弱層の圧密促進を図る工法です。
住宅地や道路部分の地下水位の高さを強制的に低下させて液状化による被害を軽減させたり、地表面下の数メートルを非液状化層としたりすることにより、液状化が発生する可能性を軽減し、液状化の被害を抑制する工法です。
地下水位低下工法の検討においては、液状化対象層の透水試験や揚水試験を実施し、
適用可能な地盤条件に対して、工法タイプの選定を行います。
今回、揚水試験についてまとめます。
地下水低下工法における揚水試験の方法・特徴について
揚水試験とは、現地に設置する揚水井・観測井で、段階揚水試験や連続揚水試験を実施し、揚水量と観測孔の水位低下量を確認することにより、基本緒元に関する情報を得ることができる試験です。
液状化対策とする場合に課題となる、以下の点を把握することができます。
- 現位置での水位低下の可能性の確認及び水位低下影響圏の把握
- 水位低下量を算定するために必要な透水係数k・貯留係数Sなど水理定数の把握
- 地下水位低下による周辺地盤の沈下影響の把握
透水係数は、透水試験ではピンポイントでの値に対し、 揚水試験での透水係数は層としての値であり、より現実に近い値となります。
貯留係数は、地下水位低下の時間的変化を算定する場合に必要な値で、浸透流解析などの計算を実施する場合に必要な値です。
揚水試験は
- 試験準備
- 予備試験
- 本試験
- 解析
の順に実施されます。
試験準備
試験準備は以下があげられます。
- 揚水井の設置
- 観測井の設置
- 揚水設備(水中ポンプ、揚水管)の設置
- 排水管(ノッチタンクを含む)の設置
- 電気設備の設置
揚水井はストレーナー2m・ケーシング3mのSUS管で構成されます。
液状化対象層厚が3m程度の場合、液状化層厚や低下水位を考慮され、揚水井φ350mmの掘削深度は5mに設定されます。
観察井は有孔管2m・無孔管1mで構成されます。
水位観測井φ116mmの設置位置は、揚水井の影響圏半径を考慮し、揚水井を中心に3m・9m・27mの位置に十文字の配列にし、深さは3mに設定されます。
観測期間は、季節変動を加味して、渇水期だけでなく梅雨期まで長期的な変動を観察します。
予備試験
本試験に先立って予備試験を行い、本試験に使用する揚水量を決定します。
予備試験は段階揚水試験法を実施します。
段階試験は揚水量を数段階に分け、1段階の揚水で水位が安定した後、次段階に揚水量を上げて、引き続き揚水を行う方法です。
測定時間は、水位安定が確認された時点で次の段階に移ります。
測定間隔は、最初は短間隔で測定し、水位変化速度が小さくなったら次第に広げます。
揚水量は三角堰で計測し、観測井12か所で同時に水位測定を行います。
本試験
本試験は、段階試験の結果を参考に、2種類の揚水量で本試験を行うと、適正な影響半径の把握が可能となる。
連続試験によって生じる水位効果と時間の関係を、段階試験と同様に揚水井・観測井とも測定します。
連続試験終了後、直ちに回復試験を行い、水位上昇が少なくなるか、ほぼ安定した状態をもって終了とする。
解析
地下水位低下工法の設計にあたっては、液状化判定をもとに適切な地下水位低下量を決定します。
ただし、下部に軟弱粘土層がある場合には地下水位低下に伴う地盤沈下量も推定し、水位低下によって有害な沈下が生じないことを確認しておく必要があります。
- 水理条件の計測
- 沈下量算出
- 周辺への影響の確認
- 工法タイプに検討
水理条件の計測
地盤の水位変化を把握するため、水位観測孔を設けて水位計を設置して地下水位を計測します。
ケーシング内の水位を触針式水位計で定期的に測定するか、ケーシング内に自記水位計を設置して地下水位の連続観測を行います。
また、地層中の間隙水圧の変化を把握するため、地層毎に間隙水圧計を設置します。
沈下量算出
地層の沈下を把握するため、層別沈下計を設置します。
水圧式アンカーを地層境界に固定し、地表とアンカーを結ぶ測定ワイヤーの長さを計測して、地層の縮み(沈下量)を求めます。
また、地表面の沈下量を把握するため、変位杭を設置し、試験区域外に基準点を設け、水準測量により変位杭の水平変位を求めます。
これらにより沈下量を測定することができますが、簡易的にも試算することができます。
国土交通省・国土技術政策総合研究所ホームページから「地域で取り組む地盤の液状化対策のための地下水位低下の効果・影響簡易計算シート」により、その沈下量の概略値を簡易に試算することができます。
地下水位低下の量に対応した液状化対策の概略の効果・副作用である下部粘土層の圧密沈下量を簡易に求めることを支援するツールです。
地盤定数等のパラメータを入力すると、以下が算出されます。
- 液状化簡易判定結果(FL値の深度分布・PL値)
- 建築基礎構造設計指針による液状化による沈下量計算(Dcy値)
- 粘土層の圧密沈下量(⊿S値)
この計算シートは、東日本大震災による液状化被災市街地における迅速な対応を支援するため、概ねの対策効果を簡易に把握するために作成したシートです。
周辺への影響の確認
地下水位低下に伴う圧密沈下により、建物の不同沈下による傾斜が生じないようにする必要がある。
日本建築学会の「建築基礎構造設計指針」・「小規模建築物基礎設計指針」では、沈下の種類・基礎形式などに応じて、限度とする沈下量の値が示されています。
地盤の圧密沈下量がこれらを上回らないことをまず確認することが必要があります。
また、地盤の沈下による構造物への影響や支障を検討する際には、複数の地点において推定した圧密沈下量(⊿S)の平面分布より、地表面の傾斜・高低差を推定し、これの傾斜量等による構造物への影響が生じないこと・生じても軽微であることを確認する必要がある。
地質状況が複雑で不連続が発生していることが想定される場合、精度の高いボーリングデータから傾斜量等を推定するなど、入念な調査が行われることが望ましい。
傾斜角と健康障害については、日本建築学会の住まいづくり支援建築会議の復旧・復興支 援 WG「液状化被害の基礎知識」でこれまでに報告された学術研究を調査され、床の傾斜角と健康障害の対応がまとめられている。
工法タイプの検討
排水管方式は、地表下数メートルの位置に排水管を配置して、管路より上方の地下水を浸透により集めて排水させる方法です。
そのため、維持管理コストが安く済む自然流下排水方式が可能かを検討が必要です。
ポンプアップ排水方式は地区単位で集めた水が行き着く流末にのみ必要な場合に設置します。
ただし、水位低下量が現状路面から3m程度の範囲であれば築造しやすいが、管路を深く設置する場合は、工事費のコストが大きくなります。
井戸方式は、地下水位の低下幅を任意に設定することができ、比較的大きな低下幅も可能です。
複数のポンプの働きを調節して、地下水の水位や低下速度を調整することも比較的容易です。
しかし、ポンプ稼働の電力や器具の維持管理コストが継続的に発生します。
これらを考え、効果的で経済的で施工性のある工法が選定されます。
まとめ
地下水低下工法における揚水試験の方法・特徴についてまとめました。
地下水低下工法についての詳細は、下記の記事でまとめていますのでご参照ください。
紹介させて頂いた知識は土木施工管理技士の試験にも出てくるほど重要な知識です。
勉強に使用した書籍をまとめていますので、ご参照ください。