生殖は、遺伝子の一部の交換であり、自己遺伝子を組み換えることです。
単細胞の原生生物・ウィルス・細菌の一部に性は認められ、遺伝子間の組み替えはされていますが、生殖していないのがほとんどです。
この「性・生殖」の役割・仕組みについてまとめてみました。
目次
有性生殖(sexual reproduction)・無性生殖(asexual reproduction)
交配することなく繁殖することを無性生殖(asexual reproduction)、性があり交配して繁殖することを有性生殖(sexual reproduction)といいます。
単純な単為生殖をする種もあるが、有性生殖と無性生殖を繰り返す周期的単為生殖を行う種もあります。
単為生殖は2つのタイプに大別でき、減数分裂が起こさず親のクローンを産む「アポミクシス(無融合生殖)」、倍化しておいた染色体を分離する「エンドミトシス(核内有糸分裂)」です。
無性生殖は遺伝子の交換と組み替えがありませんが、有性生殖では配偶子が融合するので、突然変異遺伝子を効率的に集めることができ、少ない突然変異で多様な遺伝子型を作り出すことができます。
有性生殖のパラドックス
有性生殖・無性生殖のどちらの繁殖方法が有利であるかを考えると、短期的には無性生殖が有利である。
雄が子を産まない有性生殖よりも、全個体繁殖ができる無性生殖の方が繁殖能力が高い。
異性を探したり、交配中に危険が伴うなど、有性生殖を選択することで発生する不利益を「有意生殖のコスト」といいます。
無性生殖を行う生物も、環境条件の悪化に伴って、雄を作り出し有性生殖を行う種も存在します。
有意生殖のコストがあるにも関わらず、多くの生物が有性生殖を選択しており、これを「有性生殖のパラドックス(amphigony-paradox)」といいます。
有性生殖のパラドックスについては、下記にてまとめていますのでご参照ください。
参考ページ:生態学における「有性生殖のパラドックス」について
配偶システム
配偶システムとは、雄・雌が生涯にそれぞれ何頭の異性とつがい関係を持つかということです。
具体的な配偶システムとして、以下の4種類あげることができます。
【配偶システム】
- 一夫一妻
- 一夫多妻
- 一妻多夫
- 乱婚
一夫一妻
一夫一妻は、特定の雄・雌がつがい関係を持って子育てを行う方法で、単婚とも呼ばれます。
一生添い遂げる場合もあれば、1つの繁殖シーズンだけの場合もあります。
雄が特定の雌に保護・食料供給などにより繁殖活動を助け、雌・子に対して資源投資を行うことで、子孫を確実に残すことに注力します。
コストが非常にかかりますが、複数の配偶者を持つことで発生する感染症などのリスクを避けることが可能です。
一夫多妻
一夫多妻は、雄が複数の雌の交尾をする方法で、多くの雌との交尾行動にコストをかけることで自らの遺伝子を多く残す戦略です。
強い雄が多く繁殖できるので良質な遺伝子が残る一方、弱い雄は全く交尾できないため弱い遺伝子を排除することができます。
強い雄の遺伝子プールを形成できるが、多様な遺伝子プールを作ることはできません。
一夫多妻は、細かく以下のように分類されます。
- 資源防御型一夫多妻:雄が雌の資源を防衛してなわばりにして、資源にやってくる雌と交尾します。
- 雌防御型(ハーレム型)一夫多妻:雄が雌集団を防衛してハーレムを作り、ハーレム内の雌と交尾します。
- レック型一夫多妻:求愛する雄集団がレックという小さななわばりを作って、求愛のディスプレイを行って雌と交尾を行います。
- スクランブル競争型一夫多妻:なわばりをつくらず防衛行動はせず、雄が活発に動き回って雌を探し、次々と雌を探して交尾を行います。
一妻多夫
一妻多夫は、雌が雄との交尾を巡り合って争い、交尾後の子の養育を雄に任せて、他の複数の雄と交尾します。
男性は得た配偶者の数が繁殖の成功度に直結するが、女性は配偶相手の数を増やしたとしても関係ないため、一夫多妻は多く見られるが一妻多夫の形式をとっている種は少ないです。
男性間の競争が進むので、精子競争に勝つ雄の子供はより高い生命力をもつメリットがあります。
乱婚
乱婚は、雌も雄も交尾相手が複数である状態です。
性的パートナー間の親密な繋がりが存在しないか、短時間の持続しかしません。
群をなして繁殖を行う場合が多く、子を多く残すことができ、交尾中の被食リスクを下げることもできます。
小卵多産の戦略を取る生物は、この乱婚を選択することが多いです。
小卵多産については、下記にてまとめていますのでご参照ください。
性淘汰・性選択(sexual selection)
生物は、如何に自分の子孫を多く残すことができるか、同種間で競争を行います。
卵子の数が適応度の制限要因となっているため、基本的に異性を取り合って同性内で争うのは雄であり、交尾いい相手を選ぶのは雌であるという性的役割があります。
異性を取り合うために優れた身体武器を進化させる「同性間淘汰」と、交尾相手に選択してもらうためにより顕著な形質を進化させる「異性間淘汰」とがあります。
同性間淘汰は、主に雄間闘争で起こり、角などの直接的だけではなく、精子間競争を起こして他の雄の精子を掻き出したり、威嚇などの間接的なのも含まれます。
異性間淘汰は、鳴き声・装飾・発光・踊り・フェロモンなどの信号を発生させ、配偶者選択(性選択)を引き起こします。
性淘汰・性選択についての詳細は、下記記事にてまとめていますのでご参照ください。
参考ページ:性淘汰・性選択について ~雄間闘争・配偶者選択~
性比
性比は雄と雌の比率で、多くの生物では性比は1:1が基本です。
性別を1つの形質と考え、稀な方の性がいつも有利なことになる自然選択が働き、適応の観点から1:1の性比が最も有利になるため、性比が1:1になることを「フィッシャー性比」といいます。
しかし、兄弟姉妹など血縁関係の近い個体に限って交配が行われる場合、フィッシャー性比にはならないことがあります。
寄生蜂の多くでは、兄弟同士が雌を巡って争う局所的配偶競争が行われ、雌に偏った性比(ハミルトン性比)をもちます。
性比の詳細について、下記記事にてまとめていますのでご参照ください。
まとめ
生物の持つ「性・生殖」の役割・仕組みについてまとめました。
生態学についてより深く勉強するのに、おすすめの書籍をまとめていますのでご参照ください。