農業は1年に1作しかできないものが多く、圧倒的に経験・知識が不足してしまいます。
農業に従事し続けるには、勉強し常に新しい知見を学ばねばなりません。
勉強方法として、業界セミナー・先進地訪問・普及員による指導などありますが、私は本・業界誌・論文などを用いて勉強することが好きです。
その一環として『最強の農起業!』を読みましたので、書評・要約のように綺麗に整理できていませんが、感想・勉強になった内容をまとめてみます。
目次
『最強の農起業!』とは?
読みやすさ | |
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専門性 | |
役立ち度 |
- 著者:畔柳 茂樹
- 出版社:かんき出版
- 発売日:2017/6/7
- ページ数:240ページ
【目次】
- プロローグ
- Chapter 1 なぜブルーベリーだったのか?
- Chapter 2 理念、戦略、ブランディング
- Chapter 3 めざすは生産性の高い農業
- Chapter 4 無人栽培
- Chapter 5 観光農園システム
- Chapter 6 IT集客
- Chapter 7 農業を志す方へ
- Chapter 8 人生を変えたいあなたへ
『最強の農起業!』は、ブルーベリー観光農園で失敗しない農業経営が学べます。
著者の畔柳茂樹氏は元デンソー社員で、その頃に培われたスキルを活かして、スモール&コンパクトな事業で生産向上を追求させました。
その結果、営業日は年間たったの60日で、収益は年収2000万円を達成されています。
近年は観光農園プロデュースに取り組み、被災地復興事業として気仙沼にも観光農園を立ち上げてもいます。
『最強の農起業!』を読んで勉強になったこと
『最強の農起業!』では、成功の秘訣を以下の3つの柱として紹介されています。
- 無人栽培:素人でも最高級のブルーベリーが栽培でき、1年のうち9か月は週休5日を可能に!
- 観光農園:お客様が自ら収穫し(労働時間削減)、入園料をいただくことで驚きの生産性を実現!
- IT集客:年間60日余りで1万人が来園するネットとメディアの活用法!
ここに着目しつつ、本書で重要だと思った内容を章ごとにまとめさせていただきます。
プロローグ
【プロローグの小見出し】
- 営業日60日余りで2千万円稼ぎ、あとは悠々自適に
- 辛くて苦しいことばかりのサラリーマン時代
- 独立か残留か葛藤の日々、辞めることで視界が開ける
- 落ちこぼれサラリーマンでも変わることができる
- やりたいことは、迷いなく農業だった
- ブルーベリー農園が大ヒット
- 短期間で高収益を可能にした3本の柱
- 脱サラして10年目の集大成として
プロローグでは、サラリーマン時代から脱サラして、観光農園を成功させ、就農10年目におけるまでのストーリーが記載されています。
脱サラ農業をする方に向けたメッセージも添えられております。
Chapter 1 なぜブルーベリーだったのか?
【Chapter 1の小見出し】
- やりたい農業は3つの方向性から決めた
- お客様とダイレクトにつながる農業が必須
- 有機農業か観光農園の2つに絞られる
- 志が高くなければオーガニックな農業はできない
- イチゴは有力な候補だったが
- イチゴは次々問題点が発覚した
- ブルーベリーとの運命的な出会い
- 収穫の手間
- 育てにくさ、収穫できるまでの期間の長さ
- ブルーベリーの将来性に着目
- ブルーベリーは未知の魅力がいっぱい
- やっぱりブルーベリーしかない
- 有機でも美味しくない
- 合理的な栽培法が見つかる
- 二者択一、栽培法で悩む
- ブータンに旅立つ
- 日本とブータンは進む道が違う
- ブータンで答えが見つかった
畔柳茂樹氏のやりたい農業は3つの方向性から決定されています。
- お客様と交流ができる
- 人と地球にやさしい
- 目新しく、斬新
その方向性から、「多品目有機農業による通販・宅配」または「フルーツ栽培による観光農園」の2択に絞られ、志が高くないとできない有機農業が削られ、「フルーツ栽培による観光農園」が選ばれました。
フルーツ農園として、イチゴ・ぶどう・ブルーベリー・トマト・メロンなどからブルーベリーが選ばれたのは、以下の理由です。
- 安全性:ほとんど農薬を必要としない
- 環境負荷:フードマイレージ
- 機能性:抗酸化作用が40種の野菜・果物の中で最強
- 加工性:売上アップ
- 生産性:耐病性・耐虫性であり、永年性作物であり作業時間が短い
- 設備投資:露地栽培が可能であり、初期投資が低め
- 集客力:6〜8月が旬で夏休みをカバーできる
また、ブルーベリーの不利な点も挙げられています。
- 収穫の手間:1kg収穫するのに最低30分のため、必要経費の半分が労務費
- 育てにくさ:アメリカ原産の温帯果樹のため、気候は良いが土壌環境が異なる
- 収穫できるまでの期間の長さ:収穫までに3〜4年の時間がかかる
栽培方法を、「有機農法」か「養液栽培によるハイテク農法」について悩み、ブータンで「養液栽培によるハイテク農法」を選択した経緯なども記載されています。
Chapter 2 理念、戦略、ブランディング
【Chapter 2の小見出し】
- 農園の概要
- 農園の基本理念、ビジョン
- ブルーベリーを売るのではなく、「体験」を売っている
- 3つの経営戦略 ~「戦わない」が基本戦略~
- 従来の観光農園の真逆にする
- 団体客を受け入れない個人専用観光農園
- 周りの反対を押し切って団体客お断りを貫く
- お客様は、おもてなしの心でお迎えする
- ポジショニングの重要性
- ポジショニングすることでやるべきことが明確に
- レストスペースの施設を洗練されたものへ
- 価格設定もお客様を意識したものに
- 相乗効果で素晴らしいお客様に恵まれる
- さながら農園はデートスポット
- 「一点集中主義」=ブルーベリー観光農園の一本に絞る
- アンケートの結果は上々
Chapter 2では、著者がオーナーを務めている「ブルーベリーファームおかざき」について記載されています。
【ブルーベリーファームおかざきの基本情報(2020年時点)】
- ブルーベリー栽培:5000m2に40種1400本(本書記載情報1300本)
- 開演期間:6月上旬〜8月下旬までの10週のみ
- 制限時間:基本無制限、土日混雑時には90分・120分の規制
- 料金:中学生以上2300円(本書記載情報2000円)、小学生1500円、幼児1000円
畔柳茂樹氏はこの農園のビジョンとして「最高品質のブルーベリーを提供する・ブルーベリー狩りという新しい価値を創造する・おもてなしの農業を実践する」を掲げています。
また、3つの経営戦略を示しています。
- 戦わないポジショニング
- 1点集中主義
- 生産性向上
①戦わないポジショニング
1つ目の経営戦略は、「ブルーオーシャン戦略」を挙げ、観光農園の真逆をやってみることを示しています。
団体客を受け入れない個人専用観光農園にして、ポジショニングを従来の観光農園を変えます。
個人・高価格・大粒・甘いと従来農園の逆のポジションにつくことでターゲティングを明確にします。
レストスペースをリゾート風にアレンジして整備もし、デートコース・子連れで利用できるように、ベビーカー・サンダル・ヒールで入れるように工夫もしています。
こうした努力が、高価格・高品質を保ち、良いお客に恵まれているようです。
②1点集中主義
2つ目の経営戦略は、「ランチェスターの法則」を挙げ、「ヒト・モノ・カネ」を一点集中させることを示しています。
一点集中させ、「ブルーベリーと言えば、ブルーベリーファームおかざきだよね!」と言われるような日本一のブルーベリー農家になることに目標をおいて行動をとったことが書かれています。
アンケートでその評価がされていることが紹介されています。
Chapter 3 めざすは生産性の高い農業
【Chapter 3の小見出し】
- 拡大路線ではなく、付加価値・生産性の高い農業
- 生産性とはなにか
- GDP世界3位でも、生産性は驚くほど低い
- 農業の1人当たり総生産額は異常に低い
- デンソー時代に培った合理化技術
- 生産性の発想が乏しい日本農業
- イチゴ農家でさえも時給900円?
- 人手不足は外国人労働者で補うことは正解か
3つの経営戦略「戦わないポジショニング・1点集中主義・生産性向上」の3つ目の「生産性向上」について、Chapter 3・4・5・6で記載されていき、『最強の農起業』の中核です。
生産性を追求すると、サービス低下につながりかねないが、両立できる方法を模索しています。
生産性は労働生産性で従業員1人あたりあるいは時間当たりの付加価値額を示す指標です。
畔柳茂樹氏が短期間で極めて生産性が高い農業を可能したことは3つあります。
- 無人栽培
- 観光農園
- IT集客
無人栽培はChapter 4、観光農園はChapter 5、IT集客はChapter 6でまとめられています。
Chapter 4 無人栽培
【Chapter 4の小見出し】
- 作業工程を分析して合理化検討
- 収穫以外のボトルネックは3つ
- 植物の潜在能力を最大限引き出す環境とは
- 養液栽培が潜在能力を引き出す
- 各段に速い生育スピード
- 最高品質のブルーベリー誕生
- 人の育て方もブルーベリーと同じ
- 移動観光農園も可能に
- 機械化によって捻出した時間を集客活動に使う
- 除草作業をなくす
- ハイヒールで楽しめる農園に
- 当たり前のことを疑ってみる
ブルーベリー栽培において、収穫作業以外の栽培管理でボトルネックになるのは以下の3つになります。
- 収穫までの生育期間の長さ(3〜4年)
- 水・肥料やりなど日常の栽培管理
- 除草作業
このような問題点を解決したのが、「養液栽培システム」です。
排水性・通気性・保水性を兼ね備え、経年劣化しない人工培地(アクアフォーム)でポット管理し、コンピューターにセットして安定的に日に数回、酸性液肥を実施します。
苗木を定植してから1〜2年で収穫可能になり、栽培管理・除草作業の労務時間削減にも役立ちます。
さらに、糖度のUP・移動観光農園が可能になるなど、副次的な効果も列挙されています。
Chapter 5 観光農園システム
【Chapter 5の小見出し】
- 画期的な観光農園システム、収穫作業がない
- 価格も出荷型の価格の2~3倍で販売可能
- お客様とつながれるのも大きな魅力
- 完熟したブルーベリーは観光農園にしかない
- 自分の好みの品種を探すのも楽しい
- 農園カフェのスイーツも大人気
- 観光農園のデメリットと投資額
- Win-Win の関係が成立している
- 生産性向上施策で1000万円のコスト削減
- 農園の総労働時間3660時間
- メリハリのあるライフスタイル
- 農作物別農家の生産性を比較
- 際立つこの農園の生産性の高さ
一般的な出荷型のブルーベリー農家において、生産管理の労働時間で最も多いのは「収穫・出荷」であり、全体の65%の時間を占める約3000h/年です。
これを観光農園化することでこの時間を削除することができ、労務費を圧縮することができます。
6〜8月の営業期間は週休1日ですが、それ以外は剪定などの管理だけなので週休4〜5日で過ごすことができ、メリハリのある生活ができるそうです。
労働時間以外にも、中間卸業者を介さずに直接消費者に販売することができ、入園料以外にもお土産・農園スイーツなどにより、kgあたり単価も上昇します。
消費者目線からもメリットがあります。
- 完熟果が食べられる:完熟すると傷みやすいから完熟果は流通しない
- 好みの品種を探せる:40種の中から常に10〜20種が食べられる
観光農園化のメリットだけではなくデメリットも記載されています。
畑以外にも駐車場・レストスペースなどのコスト負担が大きくなり、2000〜2400万円の設備投資がかかるそうです。
Chapter 6 IT集客
【Chapter 6の小見出し】
- ゼロから学んだ集客術
- 集客の基本的な考え方
- 井戸が掘れない、スタートから大ピンチ
- ホームページにはオーナーの想いと物語が必要
- ホームページは自前でつくる
- プレゼン資料をつくる感覚で制作
- ホームページ完成までの道のり
- 2007年はブルーベリーの育成に注力
- オープン2008年7月19日に向けて
- レストスペースの工事に取り掛かる
- ストスペースの中心にログハウス
- 造園屋さんに教えてもらったブログの威力
- ブログをほぼ毎日書くことで安定した読者数を獲得
- 読者を増やすブログの書き方とは
- オープン1か月前からイベントを企画
- メディア向けのアプローチを模索
- 市役所の記者室に飛び込み営業
- メディア向け内覧会(記者発表)は大成功
- 助っ人が次々現れる
- オープン初日から行列が
- 開業2年目は動画制作
- 開業3年目は、予約システム導入とメルマガ配信
- 市販ツールで予約システム化
- 予約システムが土日の混雑状況を緩和
- 熱心なファンにはメルマガを発信
- 台風の直撃で大きな被害
- 東日本大震災の影響は大きかった
- 2012年はセミナー元年
- SNSは2013年から活用、ブログと使い分ける
- 雑誌の広告も選択次第でかなり有効
- 2014年からリスティング広告を始める
- コストパフォーマンスの高いリスティング広告
- 停滞感を打破するために新しい取り組みを続々と
- アンケート回収も一工夫
- アンケートから見えてくるもの
- メディアとの人脈づくり
- メディア取材のポイントは
- 念願のお客様1万人達成
著者が実施したIT集客は、「無料で利用できるツールを使って広告宣伝する・ネットとメディアを活用して集客すること」です。
新聞・雑誌・折り込みチラシなど大手企業に敵わなかったものが、ネットを活用することで、強者と互角に戦えます。
畔柳茂樹氏は、HPに自身の想いや物語を記載する工夫もし、自前で作るこだわりがあります。
ブログも意欲的に更新しており、「数多く投稿すること」「専門だからこそ教えられる役立つ内容を書くこと」「小技」などをポイントして挙げています。
オープン前にも近隣に向けて無料開放し、お披露目イベント・記者発表なども行い、開園後も動画紹介・メルマガ配信・SNS・リスティング広告・プレスリリース・メディア取材を実施しています。
その効果は入園者の伸び率が示しており、アンケートでもメディア集客の効果を確かめています。
Chapter 7 農業を志す方へ
【Chapter 7の小見出し】
- 斜陽化する日本農業
- 農業ほど伸びしろのある産業はない
- 農業の4つの問題点
- 国やJAに頼らない自立した農業のために
- 補助金に頼らない
- 農地探しは地道に粘り強く
- 栽培技術の習得はどこで学ぶか
- 持続可能な儲かる農業には、生産性向上につながる農業が必須
- お客様とつながる農業がより重要
- 「将来に不安がない」農家の共通点
- 「つながる」農業も多様なやり方がある
- お客様との感動エピソード
- 異業種参入だから上手くいく
- 農家に対するイメージは最悪
- ポジティブなアンケート結果もある
- これからの農業にはラク、儲かる、華やか、モテることが必要
- 脱サラ起業を支援する
- 被災地気仙沼のブルーベリー観光農園をプロデュース
- 東海地方でもプロデュース
農業に従事している農家では気づけなかった問題点について、畔柳茂樹氏が整理しています。
- 農業には生産性という考え方がないということ
- 農業はIT化が著しく遅れていること
- 農業は価格を自分で決められないこと
- 農業はお客様の顔が見られないこと
これら問題への解決として、「無人栽培」「観光農園」「IT集客」にたどり着いたそうです。
栽培技術については、愛知県立農業大学校の新規就農者コースに参加し、従来のやり方を習得した上で常に進化させていく大切さを説いています。
Chapter 8 人生を変えたいあなたへ
【Chapter 8の小見出し】
- 人生を変えたいあなたへ
- 脱サラ起業のきっかけになった14の問い
- 自分のシャドーを受け入れる
- 人は誰でも劇的に変われる
- やりたいこと、好きなことがやる気スイッチを入れる
- 好きな仕事があなたの人生を変える
- 好きなことを仕事にする10か条
- あとがき
最後に、畔柳茂樹氏が起業する人に向けてのメッセージがまとめられています。
畔柳茂樹氏が、「脱サラのきっかけになった14の問い」が記載されています。
- 会社でやりたいこと、挑戦してみたいことがまだたくさんあるのか?
- 会社の中での自分の明るい未来が描けるか?
- 自分があこがれる理想の上司はいるか?
- 自分は会社にとってかけがえのない存在か?
- この先、昇給が期待できるか?
- この先、昇進が期待できるか?
- この先、キャリア、スキルアップが期待できるか?
- 仕事、生活のためには、自由は制限されても仕方ないと思うか?
- 自分の仕事が社会に貢献していると実感できるか?
- いまの仕事が自分には天職(ライフワーク)だと思うか?
- 月曜日の朝、気持ちよく起きて会社に行けるか?
- いまの仕事は、もともと自分がやりたかった仕事か?
- いまの自分は、なりたかった自分か?
- いまの仕事、あるいは会社生活を通して、自己実現ができると思うか?
また、「好きなことを仕事にする10か条」も記載しています。
- 好きなことをできる環境をつくる
- できない理由探しをやめる
- 評論家の言葉に耳を貸さない
- 自分の内なる声、直感を大切にして、すぐ行動する
- 妻あるいは夫の理解は必須
- 獲得するのは、お金ではなく自由だ
- 決断するとは、なにかを捨てること
- 成功の対価とは常に先払いだ。自分に投資する
- 前職が必ず生かされる、点と点が軸でつながる
- 覚悟したらすべてが動き出す
これらの考え方は、農業の起業だけではなく、あらゆるジャンルの起業にも通用する考え方です。
『最強の農起業!』を読んで今後勉強すべきこと
『最強の農起業!』を読んで、農業で起業するために考えなくてはいけないことが色々学べたと思います。
より就農するための知識をつけるために、他の本でも勉強したいと思います。
まず、『絶対にギブアップしたくない人のための成功する農業』を読んでみます。
また、経営計画書についての理解は重要だと思うので、経営計画に重きを置かれた就農本である『就農は「経営計画」で9割決まる 農業に転職!』を読んでみます。
まとめ
『最強の農起業!』を書評・要約のようにまとまっていないかも知れませんが、感想・内容を紹介しました。
最新の農業情報を得るためには、本だと出版までのタイムラグがあるので、農業の専門雑誌を読むほうがおすすめです。
毎月購入すると結構コストがかかってしまうので、ネットで農業雑誌・家庭菜園誌が読み放の「楽天マガジン」がおすすめですので、利用してみてください。
まだまだ勉強不足ですので、これらからもしっかり勉強していきます。
また、YouTubeチャンネル『ブルーベリーファームおかざき 公式チャンネル』で最新情報を発信されているので、ぜひご確認ください。