コロナの外出自粛の影響から、メダカ飼育が1つのブームになり、庭でビオトープを楽しむ方が増えました。
時期になるとホームセンターでビオトープの専用コーナーが設けられるほどです。
しかし、生育形の違い・耐寒性など水草の特性が分からない種類も多くあります。
ビオトープで使われる水草の生態を把握するため、今回は「ムジナモ」の飼育方法についてまとめます。
ムジナモ(狢藻)とは
ムジナモ(狢藻)は、二枚貝状の捕虫葉を持つ食虫植物で、多年草の浮遊性植物です。
学名はAldrovanda vesiculosaで、モウセンゴケ科ムジナモ属に分類され、英名は「Waterwheel plant」で表記されます。
霞ヶ浦・巨椋池・多々良沼などに自生していたが絶滅しており、現在は環境省絶滅危惧IA類 (CR)の指定種です。
内側に感覚毛があり、ミジンコなどが入り刺激を受けると1/100~1/50秒の速度で閉まります。
引用:牧野富太郎、日本の植物に関するノート、XIX 、植物学雑誌、1893 、第 7 巻、第 80 号、ページ 285-286
NHK連続テレビ小説『らんまん』の主人公槙野万太郎のモデル「牧野富太郎」が、ムジナ(現在はアナグマだが、当時はタヌキの別名)の尻尾に似ている姿から、ムジナモと名付けました。
東京都江戸川区小岩菖蒲園に「ムジナモ発見の地」として、石碑が建てられました。
ムジナモの自生地
世界各国で自生地が確認されていたが、近代化に伴う水質汚濁・埋立で生息地が激減しています。
日本においても埼玉県にある「宝蔵寺沼」がムジナモ最後の自生地になり、1966年(昭和41年)に「宝蔵寺沼ムジナモ自生地」として国の天然記念物に指定されました。
しかし、1967年に水害・農薬などの影響によって野生個体群は絶滅し、栽培個体を人為的に移植しています。
休眠していた種子が生息地の環境変化で発芽することで再発見が続き、現在も細々と世界各地に分布しています。
2022年10月に西原昇吾(中央大学理工学部兼任講師)により石川県の農業用ため池で発見され、西廣淳(国立環境研究所)と志賀隆(新潟大学)の参加により現地環境調査と遺伝解析を行った結果、発見されたムジナモは人為的に導入されたものではなく、「人為導入に由来しないと推測される国内唯一のムジナモ個体群」である可能性が高いと判断されました(Shougo Nishihara, Takashi Shiga, Jun Nishihiro,The discovery of a new locality for Aldrovanda vesiculosa (Droseraceae), a critically endangered free-floating plant in Japan,Journal of Asia-Pacific Biodiversity,Volume 16, Issue 2,2023,Pages 227-233,)
ムジナモの育て方
生息地は天然記念物に指定されているところもありますが、種が天然記念物に指定されているわけではないので、合法的に飼育できます。
ただ、栽培が難しいことから、一般には流通せず一部の愛好家によって栽培されているため、メルカリ・ヤフオクなどで流通しているのみで入手が非常に難しいです。
羽生市ムジナモ保存会の保護・増殖部で、ムジナモの飼育法が提示されているので参考にしてみてください。
日当たりのよい低地の湿地に生息することから、以下の3つの条件がムジナモ栽培の要と言われています。
【ムジナモの育て方】
- リター(腐植質)の供給
- 止水状態で日光をしっかり当てる
- 飼育水を常時弱酸性・貧栄養を保つ
これら3つの条件を足し合わしてムジナモの飼育環境を簡潔に示すと、屋外の水瓶で「赤玉土+ブラックウォーター」の環境を作り、オカダモなどの抽水植物と飼育するになります。
①リター(腐植質)の供給
ムジナモはリター(腐植質)が豊富な環境を好むため、飼育する際はリター(腐植質)の供給が必須です。
落ち葉・稲わらなどの「腐植資材の投入」、ピートモスを用いた「飼育水のブラックウォーター化」が対策として挙げられます。
少しコストはかかりますが、調整剤を用いて簡単にブラックウォーターは作れるのでおすすめです。
栄養不足を心配してミジンコを培養して与える方もいますが、腐植質が豊富であれば光合成のみでも飼育可能です。
栄養不足が気になるなら、屋外飼育をすれば勝手に微生物が湧くので心配ありません。
②止水状態で日光をしっかり当てる
ムジナモは、水流が弱く日照量が多い環境を好みます。
日照量が多いと、ムジナモの生育を阻害する「藍藻」が発生しやすいので注意が必要です。
また、屋内飼育で使われる「循環フィルター」は、吐水量が強すぎるので使用しないほうが良いでしょう。
③飼育水を常時弱酸性・貧栄養を保つ
ムジナモが好む湿地環境は、常時弱酸性・貧栄養です。
水換えの頻度が高過ぎなければ弱酸性の水質は簡単に維持することができますが、腐植質が豊富でありながらN・Pが少ない貧栄養を保つ点が、ムジナモ飼育を難しくしています。
水中の栄養素吸収・リター生成のため、他の水棲植物と同居飼育させるのが一般的な対策です。
また、底床に「赤玉土」などの吸着性のある底材を用いれば、ある程度水中の栄養素を吸収してくれます。
ムジナモの生活史
5月~10月にかけて生長・分岐を繰り返していきます。
7月~8月の水温が30℃を超えると花茎を1本伸ばし、条件が整っていると昼の1~2時間だけ白色の小さな花を1つだけ咲かせます。
閉鎖花の状態で終わってしまうことが多いので、「幻の花」と呼ばれているのです。
水温が10℃以下になると頂芽部分に密集し冬芽(殖芽)をつくり、11月~2月にかけては水底に沈んで越冬します。
水温が10℃以上になる3月~4月にかけて、冬芽が浮上・発芽してまた生長を始めます。
ムジナモの増やし方
5月~10月にかけて生長をしていく過程で、脇芽・側芽を出します。
10cmにならない程度のところで勝手に分離していくので、手軽に増やすことが可能です。
適当な長さになったら人工的に分離させることもできますが、芽が痛むこともあるので放置が良いでしょう。
浮遊性植物全般に言えることですが、生育条件が整えられたら爆増していくので、水面の余地スペースの確保に注意してください。
まとめ
ムジナモの飼育方法についてまとめました。
ビオトープではたくさんの水草が使用されています。
実際にビオトープを作成した私がおすすめする水草をまとめていますので、下記から詳細をご参照ください。