山間部で野外活動する際には、害虫・害獣に気をつけなければなりません。
特に山ヒル(ヤマビル)は、音もなく、痛みもなく、吸血してきます。
そのため、ヤマビル対策をしっかりして野外活動する必要があります。
目次
山ヒル(ヤマビル)とは
ニホンヤマビル(Haemadipsa zeylanica japonica)は、ヒル網顎蛭目ヤマビル科に分類され、日本で唯一の陸棲吸血性ヒルです。
排出される炭酸ガス・体温・振動などを察知して野生動物・人に取りつき、表皮を3つの顎でY字型に切って吸血します。
吸血時に、歯の間からヒルジンという血液凝固阻止物質を出すので、血が止まりにくくなります。
ヤマビルの活動時期は4月~11月で、気温が20度以上の雨・雨上がりの天候の時に最も活発になります。
伐採・草刈りなどの適切な森林管理がされないことがヤマビルの生息域を拡大させ、ヤマビルの吸血被害が拡大しています。(神奈川県:ヤマビル生息状況アンケート調査報告)
山ヒル(ヤマビル)への対策・対処方法
山間部で活動しているときに、ヤマビルに吸血されると、体力・気力共に消耗してしまいます。
マダニや蜂のような毒はありませんが、十分に対策をして行動する必要があります。
ヤマビルへの対処方法として、
- 噛まれないようにする対策
- 噛まれてしまったときの対処方法
をまとめてみます。
①山ヒル(ヤマビル)に噛まれないようにする対策
ヤマビルの活動時期である「4月~11月」、活発になる「気温が20度以上の雨・雨上がりの天候」のときに山間部で野外行動をする際には、適切な対策をとる必要があります。
ヤマビルに噛まれないようにするためには、以下の対策が重要になります。
【ヤマビルに噛まれないようにする対策】
- 吸血されにくい服装をする
- 回避行動をとる
- 忌避剤を使用する
①−1 吸血されにくい服装をする
吸血されないためには、ヤマビルが潜り込む服装の隙間・肌の露出を減らす工夫が必要です。
主な工夫として以下のことが挙げられます。
- 基本的な服装は、長袖・長ズボン・長靴下・手袋・帽子
- 靴はくるぶしまで覆える登山靴・長靴
- 隙間ができてしまうボタンシャツは避ける
- 登山・スポーツ用のサポートタイツ
- シャツの裾はズボンに入れる・ズボンの裾を靴下に入れる
①−2 回避行動をとる
ヤマビルに遭遇しないように、吸血されないように行動する必要があります。
ヤマビルが多くいる獣道は避けて整備された登山道を歩くようにし、日当たり・風通しの悪い山側に近づかないようにしましょう。
また、行動時よりも休憩時に這い上がられやすいので注意が必要です。
休憩時は直接地面に荷物や腰を下ろさないようにし、休憩後にヤマビルが付いていないか確認しましょう。
①−3 忌避剤を使用をする
侵入しやすい箇所に忌避剤をつければ、ヤマビルの侵入は防ぐ効果が期待できます。
直接ヤマビルが触れることが効果を発揮するので、皮膚に塗るのではなく「靴・ズボンの裾・靴下・首元に巻いたタオル」などに塗布すると効果があります。
忌避剤としては以下のものが挙げられます。
【山ビルの忌避剤】
- 市販されているヤマビル忌避剤(◎)
- 食塩・濃度20%以上の食塩水(◎)
- 防虫スプレー(○)
- メントール系ローション・ボティーシート(○)
- エアゾール式鎮痛消炎剤(△)
市販されているヤマビル忌避剤(◎)
市販されているヤマビル忌避剤の中で、有名なものとして株式会社エコ・トレードが販売している『ヒル下がりのジョニー』が挙げられます。
ヒル下がりのジョニーは、ハッカ油・植物抽出天然エキスなどの生分解性のものを使っており、ディート不使用でお子様でも安心して利用できます。
1カ所あたり5回程度噴霧することで効果があるようです。
食塩・濃度20%以上の食塩水(◎)
ナメクジみたいに、食塩を用いて退治することができます。
食塩本体をふりかけるか、濃度20%以上の食塩水を作って携帯スプレーで吹き付けると効果があります。
ヤマビルへの忌避効果のある食塩水の作り方は簡単で、常温における飽和食塩水は26%ですので、溶け残りが生じるほど食塩を入れるだけです。
粗塩を直接靴に塗り込むなど、昔から効果的な方法として用いられていました。
防虫スプレー(○)
防虫スプレーには、ヤマビルへの忌避効果が表示されているものがあります。
子供も安心して使用できるイカリジン配合の防虫スプレー・天然ハーブ系防虫スプレーのものが使いやすいです。
市販でおすすめの防虫スプレーとして、「フマキラー スキンベープミスト イカリジンプレミアム」を挙げます。
イカリジン15%配合で、ヤマビル以外にも「蚊成虫、ブユ、アブ、マダニ、イエダニ、トコジラミ」の忌避効果があります。
また、ディート30%入りの強い虫除けスプレーでも効果があるので使用してみてください。
メントール系ローション・ボディーシート(○)
ヤマビル忌避剤「ダウンヒル」で特許取得した秋田県の金足農業高校のプロジェクト結果より「メントールやバニロイドを用いて忌避実験を行ったところ,ヤマビルは両物質に対して低濃度でも明らかな忌避行動を示した」と示されています。(ヤマビル前吸盤の温度感受性を利用した忌避剤の開発)
メントールが配合され、市販されていて簡単に手に入るものとして、「シーブリーズ」が挙げられます。
フローラル系の香料が含まれていると虫が寄ってくる可能性もあるので、柑橘・ハーブ系・無香料のタイプが好ましいと思います。
エアゾール式鎮痛消炎剤(△)
バンテリンやエアーサロンパスなどの鎮痛消炎剤もヤマビルの忌避剤として使われることがあります。
登山の先輩方が愛用し効果があるようですが、どうして効果があるのかなどのエビデンスは見つけることができませんでした。
上記4つのものがなければ代用品として使えるかもしれません。
②山ヒル(ヤマビル)に噛まれてしまったときの対処方法
山ヒル(ヤマビル)に噛まれないようにする対処をしても、100%の安全が保証されるものではありません。
そのため、ヤマビルに噛まれてしまった時の対処方法を知らなければなりません。
ヤマビル噛まれてしまった場合、以下の手順で処置をします。
【ヤマビルに噛まれてしまったときの対処方法】
- 引き剥がず
- ヒルジンを除去する
- 傷口を保護する
②−1 引き剥がす
ヤマビルは吸血中でも吸盤でくっついているだけなので、手で前吸盤をゆっくりはがすことで引き剥がすことができます。
しかし、慣れていないと容易にできることではなく、ヤマビルに触れることにも抵抗があります。
そこで、簡単にヤマビルが剥がれ落ちる方法として、以下の方法があります。
- 忌避剤を散布すること
- ライター・タバコ・線香を用いて火で炙る
- 刃物で切断する
ヤマビルを引き剥がす際に吸血した血が出てしまうので、仲間の手当をする場合は、手袋を使用するなど衛生上の注意が必要です。
引き剥がしたヤマビルは、そのままにすると繁殖してしまうので、できる限り駆除する方が好ましいです。
②−2 ヒルジンを除去する
ヤマビルは吸血時に歯の間からヒルジンという血液凝固阻止物質を出します。
このヒルジンを除去しないと、血がなかなか止まってくれません。
ヒルジンは水溶性なので、表面付近に付着しているヒルジンは流水で洗い流すことができます。
しかし、傷の奥にあるヒルジンを洗い流すことができません。
そのため、ポイズンリムーバーを使ってヒルジンを吸い出す必要があります。
ポイズンリムーバーがない場合は、傷口を指でつまんで血を押し出すことでも除去できます。
②−3 傷口を保護する
マダニとは違い、ヤマビルに吸血された際に注意すべき感染症はありません。
しかし、傷口を放置しておくと、病原菌・細菌等の侵入を許してしまい、2次感染が起きてしまう危険があります。
傷口を水や消毒用エタノールで洗い、痒みがある場合は抗ヒスタミン剤を塗りましょう。
ヒルジンを除去しても血は簡単には止まらないので、絆創膏等で出血部位を押さえて止血する必要があります。
ばんそうこうは3時間ごと程度で貼りかえると、傷口が清潔に保つことができます。
まとめ
ヤマビルへの対策・対処方法として、
- 噛まれないようにする対策
- 噛まれてしまったときの対処方法
に分けてまとめてみました。
野外で活動する際には、しっかりと準備・勉強をしてから挑みましょう。
ヤマビル以外にも対処すべき危険は多くあり、野外活動するために事前に用意するべきサバイバルキットをまとめましたので、参考にしていただければ幸いです。