有機農産物のJAS規格は、主に次の3つの項目で構成されている。
- 有機農産物の生産の原則
- 生産の方法についての基準
- 有機農産物の名称の表示
生産にあたっては「有機農産物の日本農林規格(JAS 規格)」に定められた栽培方法により農産物を生産し、この規格に準拠したものに格付して出荷しなくていけません。
今回は、3つの項目から、「生産の方法についての基準」についてまとめます。
目次
有機農産物のJAS規格における「生産の方法についての基準」について
有機農産物の生産方法として定められている項目は、単に作物の栽培方法だけではなく、種から出荷までのすべての段階についての基準が定められています。
具体的には、有機JAS規格第4条で規定されて、項目として以下に分かれています。
【有機JAS規格第4条規定】
- ほ場等の条件
- ほ場に播種又は植付ける種苗
- ほ場等における肥培管理
- ほ場等における有害動植物の防除
- 収穫後の管理(輸送・選別・調製・洗浄・貯蔵・包装その他の工程に係る管理)
①ほ場等の条件
有機農産物を生産するには、「使用するほ場」に基準があり、時間条件・物理条件を満たしている必要があります。
時間条件は、単にその年だけが無農薬・無化学肥料による生産であってもその農産物は有機とは認められず、使用するほ場の過去の履歴が問われます。
物理条件は、自らのほ場で有機栽培を実施していても、周囲から農薬等が飛散・混入したのでは有機農産物とはいえず、これについての基準も定められています。
時間的条件
時間条件では、ほ場での過去の生産の履歴が問われます。
有機表示をするには「転換期間」が必要で、以下の期間において、「ほ場等における肥培管理の基準」「ほ場に播種又は植付ける種苗の基準」「ほ場等における有害動植物の防除の基準に」基づき農産物の栽培が行われているほ場であることが基本です。
- 牧草を除く多年生作物:最初の収穫前から3年以上
- それ以外の作物:播種または植付け前から2年以上
ただし、ほ場の条件によって期間が多少異なります。
新たに農産物の生産を開始した場合、2年以上使用禁止資材を使用していない「開拓されたほ場・耕作の目的に供されていないほ場」では、「播種又は植付け前から1年以上」と短くなります。
これらの期間を有したものが有機表示するには必須であるが、収穫の1年以上前から有機に転換し、すべての有機基準を満たした場合は、認定をうけて「転換期間中有機○○」の表示をすることができます。
採取場は、肥効管理・防除などの基準はなく、「使用禁止資産が使用されていないこと・周辺から使用禁止資材が飛来しない一定の区域・農産物を採取する前の3年以上」という条件になっています。
物理的条件
有機JAS規格第4条で、使用するほ場に対して、周辺から「使用禁止資材」に該当する肥料・土壌改良資材・農薬などが、飛来・流入を防止するために必要な措置が講じられていることが条件になっています。
大きく分けて3つ注意するべき点があります。
- 隣接する農地
- 水
- 航空防除対策(航空防除対象地域の場合)
隣接する農地
物理的条件として、一般的に注意が必要なのが、隣接する農地です。
飛散・流入する可能性が高く、1番トラブルの元にもなりやすいので気をつけなければなりません。
そのため、隣接のほ場について詳しく把握している必要があります。
- 作物
- 栽培方法
- 禁止資材の有無・飛散性
- 高低差
- 風向き・風量
- 関係の良好さ
これらを把握して上で、隣接する農地からの飛来・流入防止のための対策を講じます。
- 隣接地との間に十分な広さの道をつくる
- 充分な緩衝地帯の確保(隣との距離は認定機関により異なる)
- 緩衝地帯に別の作物を栽培する
- 防風ネットや生垣を作るなどの植栽の設置
- 境界部の土手や畦畔の有機的管理
水
ほ場で使用する水について、用水路と排水路が分離されておらず、 非有機の水田の排水が有機ほ場に流入する場合は対策が必要である。
特に水田の場合、「浄化水田」を設置して最初に入り込む水田一枚を有機としないなど、対策が必須です。
河川・井戸・沼地・池からの直接取水をする場合は、特に流入防止措置を講じる必要はありません。
航空防除対策(航空防除対象地域の場合)
有機認証制度の施行により、航空防除を実施する際は有機ほ場に飛来しないよう指導されています。
また、残留農薬のポジティブリスト制の施行により、散布にあたっての他ほ場への影響についても留意されるようになっています。
航空防除対象地域であるために認定の取得ができなかった生産者たちも、認定を受けら れる状況が整ってきておりますが、次のような対策が必要となります。
- 航空防除実施団体に防除対象からの除外申請
- 近隣が防除対象地域である場合、飛来防止対策の実施
対策を実施したとしても、地形や風向き等の条件によっては飛来の可能性は残されてしまいます。
そのため、認定機関では、航空防除がなされるほ場 から一定の距離がないとほ場の条件を満たさないとするところが多いので、認定機関に防除の判断を仰ぐのが良いと考えられます。
②ほ場に播種又は植付ける種苗
種及び苗については、有機JAS 規格に以下のように条件が定めてあります。
- 原則として、有機農産物の生産の方法の基準に適合する種苗を使用すること。
- ただし、通常の方法により入手が困難な場合や、品種の維持更新に必要な場合には、使用禁止資材を使用されずに生産されたもの(薬剤で未処理のもの)を使用。それも困難な場合は、一般の種苗を使用してよいが、その場合、種子から使用するものは種子から、苗の場合は最も若齢の苗を使用すること。(ただし、食用新芽の生産を目的とする場合は、この項目の基準は適用できない)
- 2の入手も困難で、かつ(1)災害、病虫害等により、植えつける種子又は苗がない場合、(2)種子の供給がなく、苗等で供給される場合は、一般の苗を購入して使用することが可能。(なお、災害・病害虫等の「等」には、育苗の失敗も含まれる。)
- 組換えDNA技術を用いて生産されていないこと。
有機栽培原則的には有機栽培由来の種苗の使用が必要である。
しかし、
- 譲渡・交換・購入によっては入手出来ない場合
- 購入できても著しく高価な場合
- 自家採取もできない場合
に限り、慣行栽培由来の種苗を使用することが可能です。
慣行栽培由来の種苗を使用する場合には条件があります。
- 化学合成物質による処理がなされていないものを選定
- 購入した種苗に対して自らが購入後禁止資材で種子消毒禁止
- 育苗する際に使用禁止資材を使用禁止
薬剤を使用していない種苗が手配できない場合は、種子繁殖する品種にあっては、種子を使用し、自家育苗すること。栄養繁殖する品種にあっては入手可能な最も若齢な苗等を使用すること。
種の入手については、現時点では種苗会社で有機の種を販売していることはほとんどない。従っ て、自家採取するか、有機栽培のグループどうしで協力しあって有機の種を確保する方法が現実的 である。
有機の苗を購入している場合は、メーカー・生産者から育苗方法の情報を入手し、有機 JAS規格に適合しているかどうかの確認しなければなりません。
自ら苗作りを行う場合は、苗作りの段階から有機の基準で定められた以下の方法で実施しなければないけません。
- 育苗の場所が有機登録ほ場以外の場合、除草剤などの禁止資材が飛来防止
- 有機の育苗以外の育苗を同時に実施する場合は、混合しないような対策実施
- 育苗の培土には、「基準に適合したほ場又は採取場の土壌・過去2年以上の間周辺から使用禁止資材流入していない土壌・使用禁止資材を使用していない土壌」
- 前年使用した育苗箱などの資材の洗浄
- 育苗用の水は、物理的条件と同様
③ほ場等における肥培管理
ほ場等における肥培管理について、以下の方法によって土壌の性質に由来する農地の生産力の維持増進が図られるよう
有機JAS規格で定めてあります。
- 当該ほ場等において生産された農産物の残さに由来する堆肥の施用
- その他の当該ほ場若しくはその周辺に生息若しくは生育する生物(ミミズ、昆虫、微生物など)による有機物の分解や生物の物質循環による土壌の質的改善
- 作物の栄養成分の不足により正常な生育ができない場合に限り、資材(肥料及び土壌改良資材)が使用可能
- 当該ほ場若しくはその周辺以外から生物を導入することができる
自然循環機能の維持増進を図る必要から、基本的には①と②による土づくりにより、地力を高め、肥沃な土壌にすることが求められます。
しかし、作物の栄養成分が不足して、作物の正常な生育が維持できないことが明らかで、管理できない場合は、③によりの資材使用が可能です。
有機農業で用いられる農林資材については、下記記事にてまとめていますのでご参照ください。
堆肥・ボカシ肥を自ら製造している場合は、原料と作り方を明確にし、完熟堆肥になるように管理します。
原料に有機JAS規格で認められないものを使用することはできないので、入手先に状況を確認する必要があります。
④ほ場における有害動植物の防除
有害動植物の防除の方法として、耕種的・物理的・生物的防除方法の組み合わせによる方法のみによって実施されることと有機JAS規格に定めてあります。
耕種的防除方法 |
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物理的防除方法 |
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生物的防除 |
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以上の方法で、基本的には病害虫の対策を実施しなければならない。
しかし、農産物に急迫した又は 重大な危険がある場合で、上記防除方法だけでは対策が取れない場合は、JAS規格で認められている農薬が使用可能です。
農薬は恒常的に使えるわけではなく、近接ほ場等で有害動植物が発生・経験的に発生が確実に予測されるなどの場合により、農産物に多大な被害が予測される場合のみ使用が可能である。
有機農業で用いられる農林資材については、下記記事にてまとめていますのでご参照ください。
使用に際しては、農薬取締法に準拠した使用が要求されます。
- 使用農薬の適用作物が対象作物に該当しているか。
- 登録された使用方法(使用量・希釈倍率・使用時期・使用回数・散布禁止時期)にのっ
とり使用されているか。 - 改正農薬取締法に基づく農薬使用基準を遵守しているか。
- 使用資材に無登録農薬に該当するものがないか。
⑤収穫後の管理(輸送・選別・調製・洗浄・貯蔵・包装その他の工程に係る管理)
輸送・選別・調製・洗浄・貯蔵・包装その他の工程に係る管理として、農産物の収穫から出荷するまでの基準が有機JAS法に定めてあります。
- 有機農産物以外の農産物が混合しないように管理されていること
- 有害動植物の防除は有機JAS法に規定された農薬・薬剤のみ、鮮度保持や渋抜きなどの品質の保持改善に使用する資材は調製用等資材(組換え DNA 技術を用いて製造されたものを除く)のみ使用可能
- 放射線照射が行われていないこと
- 農薬、洗浄剤、消毒剤その他の薬剤に汚染されないように管理されていること
収穫後の管理で重要なのは、「非有機農産物の取り違え防止」・「 非有機農産物の混合の防止対策」・「使用禁止資材による汚染防止」 です。
非有機農産物の取り違えの防止対策 | ・収穫コンテナを色分けする。 ・収穫の時期を調整し、同じ作物で同じ日に非有機の収穫をしない。 ・また、同一日での作業がある場合は、時間帯を区分する。 ・同一作業場内で有機以外のものを持ち込まない。 ・包装作業時に、有機と非有機を区別して実施できるような十分な広さを確保する。 ・一時保管時には、有機専用スペースを設ける。これが難しい場合は、コンテナ等に明確に札を貼って有機であることを示す。 |
非有機農産物の混合の防止対策 | ・コンバインなど収穫機械は、収穫作業前に清掃又は洗浄する。 ・同じように、収穫後で使用するすべての機械類も、使用前に清掃又は洗浄する。 ・調製の機械は、全ての部分が掃除可能な構造になっているか確認する。できないところが あるとしたら、非有機の農産物が混合しないようにする手立てはあるのか検討する。 ・穀類などの貯蔵を長期に行う場合、有機専用のタンクなど、他と混じらない設備や施設を確保する。 ・緩衝地帯で栽培され、有機として出荷しないものについて、有機農産物に混入しないよう な管理をする。 ・転換期間中のものと有機も別々に取り扱う。 |
薬剤汚染の防止対策 | ・農産物を水洗いする場合には、清浄な水で実施できるよう水質について注意する。非有機の農産物で使用した水は有機では使用しない。 ・農産物の水洗い用に井戸水を使用する場合、水の殺菌目的で、殺菌剤(次亜塩素酸ソーダ) を使用することは可能であるが、この目的は、水道のような「飲用適」にするための処置とし ての使用であり、過度に殺菌剤を使用することは認められない。井戸水を使用する場合、水質 検査の実施を定期的に行うことが望ましい。 ・調製に使用する切断用具を専用にするか又は、使用前の洗浄を徹底する。 ・機械類の水洗いの方法は特に定められていないので、洗剤などの使用も可能であるが、使用後はよく水ですすいで、洗浄剤による薬剤汚染がないように気をつける。 ・保管場所で、エアゾールなどの殺虫剤や殺鼠剤(ねずみ用の毒餌)を使用しない。また、 燻蒸もしない。 ・作業場所も上記のような薬品による農産物の汚染から守るようにする。 ・出荷作業場所の周囲に、化学肥料の袋を無造作に置かないようにする。 ・調製用資材を使用する場合、予定された(認められた)もののみを使用する。 |
まとめ
有機農産物の生産の方法についての基準をまとめました。
有機農業について書籍で勉強をすることができますので、おすすめの本を下記記事にてまとめていますのでご参照ください。