生態系において、種間の関係は「捕食ー被食」の関係がほとんどです。
しかし、それで説明することができない関係を築くことができる生物間相互作用が存在します。
その中の1つに「生態系エンジニア」と呼ばれる生物について解説します。
生態系エンジニア(ecosystem engineer)とは
生態系エンジニア(ecosystem engineer)とは、生息地を化学的・物理的に自身にあった環境に改変することによって、直接的・間接的に他生物の資源利用を変化させる生物のことです。
種間関係に留まらず、遷移・撹乱を引き起こす要因・ニッチを作り出す要因の1つとして捉えられています。
生物多様性を産み出すので、生態系にとって非常に重要な種です。
生態系エンジニアの分類
生態系エンジニアは、autogenic engineers(生産型エンジニア)とallogenic engineers(生成型エンジニア)の2種類に分類できることが示されています(Jones CG, Lawton JH and Shachak M 1994. Organisms as ecosystem engineers.)。
autogenic engineers(生産型エンジニア)は、自分自身の生きた組織・死んだ組織を通じて環境を改変させる生物です。
樹木・地衣類・サンゴなどがautogenic engineers(生産型エンジニア)の例として挙げられます。
allogenic engineers(生成型エンジニア)は、生物環境や物理環境を変化させる生物撹祥(bioturbation)を通じて環境を改変させる生物です。
ビーバー・ニホンジカ・ミミズ・アフリカゾウ・オオアルマジロなどがallogenic engineers(生成型エンジニア)の例として挙げられます。
生態系エンジニアの個別解説
生態系エンジニアとして以下の生物を例に個別解説します。
【生態系エンジニアの例】
- サンゴ
- ビーバー
- ニホンジカ
- ミミズ
- アナジャコ
サンゴ
サンゴ礁は、世界の海に生息する4分の1の動物の住処です。
「産卵・生育の場」「餌の場」「CO2の循環」など、自分自身の生きた組織・死んだ組織を通じて環境を改変させています。
地球上の海の面積のうち0.1%しかサンゴ礁はありませんが、大きな影響を持っています。
ビーバー
ビーバーは生態系エンジニアの代表的な種で、樹木を切り倒してダムを作ることを通して環境を改変させます。
ビーバーは「自分の生活のために周囲の環境を作り替える、ヒト以外の唯一の動物」であると表現されていました。
ダムによりせき止められたダム湖には、水鳥・カモノハシ・湿生植物が新たに生息することができます。
ニホンジカ
ニホンジカは、林床の下層植生を食べることで、種子の芽吹きを助けて森林更新を促します。
個体数が増加によって植生被害・土壌流出を引き起こしていますが、健全な個体数であれば生態系エンジニアとして欠かせない存在です。
逆に森林更新を留める点で、アフリカゾウ・シマウマ・キリンなどがサバンナ草原において生態系エンジニアになっています。
ミミズ
ミミズは、土壌中の生息空間の創出・有機物の創出・土壌の生成など土壌生態系に欠かせない存在です。
アリ・シロアリなども土壌で同様の効果をもたらし、堆積物食者という括りであれば水中に棲む二枚貝なども同じ仲間かもしれません。
アナジャコ
アナジャコは、穴を掘って底質を撹枠し、多様な共生者が棲む巣穴を作り出します。
干潟生態系において欠かせない生態系エンジニアです。
この巣穴が多様な生物の隠れ家・採食場になる点において、ミーアキャット・オオアルマジロなども同じ仲間かもしれません。
まとめ
「生態系エンジニア」について解説しました。
生態学についてより深く勉強するのに、おすすめの書籍をまとめていますのでご参照ください。