農業土木に従事する者として、農業生産全体の状況について理解する必要があります。
それは、どのような過去があったから現在の農業があり、今後どのような未来を見据えているのかが分かると、計画・設計・施工に反映することができるからです。
今回は、水資源の利用状況についてまとめてみます。
※データにおいては令和3年現在に獲得できるもので構成されています。
水資源の現況について
日本の水収支は、年間の降水量約6500億m3のうち、約35%に当たる約2300億m3は蒸発散しており、残りの約4200億m3が最大限利用することができる理論上の量(水資源賦存量)といいます。
私たちはこの限られた水源を農業用水・生活用水・工業用水として利用しています。
2018年における取水量の全国の水使用量は約791億m3になり、内訳は以下の通りです。
- 農業用水:約535億m3(約68%)
- 生活用水:約150億m3(約19%)
- 工業用水:約106億m3(約13%)
この約791億m3の水の取水元として、約703億m3(約89%)は「河川及び湖沼」から、約88億m3 (約11%)は「地下水」から取水されています。
農業用水
農業用水は、水稲等の生育等に必要な「水田灌漑用水」、野菜・果樹等の生育等に必要な「畑地灌漑用水」、牛・豚・鶏等の家畜飼養等に必要な「畜産用水」に分かれます。
農業用水量は、実際の使用量の計測が難しいため、 耕地の整備状況・かんがい面積・単位用水量(減水深)・家畜飼養頭羽数などから国土交通省水資源部で推計した値で、養魚用水や消・流雪用水等は含んでいません。
農業用水約535億m3の内訳は以下の通りです。
- 水田灌漑:502億m³(94%)
- 畑地灌漑:29億m³(5%)
- 畜産用水:4億m³(1%)
水田面積が右肩下がりで減っていますが、末端水利系統を満足させるだけの必要水量が求められるため、水田灌漑が大きく減少することには結びつきません。
畑地灌漑の整備も推進されているため、畑地灌漑の需要は増加傾向です。
水田面積・畑地灌漑の整備状況について、下記でまとめていますのでご覧ください。
農業用水の94%が水田灌漑であるため、農業用水の需要は灌漑期である夏季の4ヶ月の間に集中しています。
近年では耕作者の経営規模の拡大に伴う農作業の長期化・コメの作付品種の多様化により、夏季集中が少しずつ緩和され始めています。
生活用水
生活用水量は、取水量ベースで約150億m³/年、有効水量ベースで約132億m³/年となっている。
生活用水は、調理・洗濯・風呂・掃除・水洗トイレ等の家庭で使用され「家庭用水」、オフィス・飲食店・ホテル等で使用され「都市活動用水」から成ります。
家庭用水は、東京都水道局が2015年に実施した調査を例に見てみると、
- 風呂:約40%
- トイレ:約21%
- 炊事:約18%
- 洗濯:約15%
- 洗面・その他:約6%
となり、洗浄を目的とするものが大部分を占めています。
生活用水の使用推移は、1998年頃のピークにかけて増加しましたが、人口減少・節水の技術進歩により徐々に減少しています。
工業用水
工業用水は、ボイラー用水・原料用水・製品処理用水・洗浄用水・冷却用水・温調用水等に使用されている水です。
工業用水使用量は、新たに河川等から取水する「淡水補給量」と一度使用した水を回収して再利用する「回収水」からなります。
工業用水使用量約433億m³/年のうち、回収水は約337億m³/年・淡水補給量96億m³/年で、回収率77.9%となっています。
工業用水使用量は2010年の555億m³/年をピークに減少傾向で、補給量は1973年をピークに徐々に減少しています。
補給水ベースの水源別構成比率は、
- 工業用水道:38.5%
- 地下水:27.5%
- 河川水:25.6%
- 上水道:7.2%
- その他:1.2%
となっています。
淡水使用量の業種別のシェアをみると、化学工業、鉄鋼業及びパルプ・紙・紙加工品製 造業の3業種が全体の約70%を占めています。
業種ごとに回収率に差が大きく、冷却等に使用される化学・鉄鋼業は80〜90%ほどの高い回収率になっているが、パルプ・紙・紙加工品製造業は45%程度と低迷している。
まとめ
水資源の利用状況についてまとめてみました。
「のうぎょうとぼく」の中では、農業土木に関する豊富な記事を書いています。
農業土木について勉強できる本については下記にてまとめていますので、ぜひご覧ください。
参考ページ:農業土木の勉強におすすめな参考書・問題集を紹介!