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地域用水・環境用水について〜冬水田んぼ・せせらぎ水路〜

地域用水・環境用水について 〜冬水田んぼ・せせらぎ水路〜
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農業土木に従事する者として、農業生産全体の状況について理解する必要があります。

それは、どのような過去があったから現在の農業があり、今後どのような未来を見据えているのかが分かると、計画・設計・施工に反映することができるからです。

地域用水・環境用水について、冬水田んぼ・せせらぎ水路などの実例を含めて解説します。

地域用水・環境用水とは?

水路

地域用水は、かんがい用水のうち、かんがい以外の用途に供される用水のことです。(農林水産省 構造改善局,1993)

地域用水の中に環境用水が含まれます。

環境用水とは、水質、親水空間、修景等生活環境又は自然環境の維持、改善等を図ることを目的とした水利使用のことです。

環境用水には、多様な水源をのもとで利用され水利権を取得していないが環境用水としての機能を果たす用水「広義の環境用水」と、国土交通省の通達 によって水利権を取得した環境用水「狭義の環境用水」があります。

環境用水・地域用水の具体的な使用用途は以下のものが想定されています。

  1. 農業目的以外の水質の改善・浄化で、農業水利施設を活用するもの
  2. 親水空間の創出で、農業水利施設を活用するもの(レクリエーションや環境教育の場
    の提供等)
  3. 新たな景観の創出や修景で、農業水利施設を活用するもの(水車の設置等)
  4. 生活環境の維持・改善で、農業水利施設を活用するもの(洗い場等の設置等)
  5. 生態系の保全のために、農業水利施設を活用するもの(魚類の保全等)
  6. 生態系の保全のために、冬期に水田に湛水するために農業水利施設を活用するもの
    (鳥類の保護等)
  7. その他

地域用水として利用されていた飲雑用水・防火用水・消流雪用水なども含まれてます。

農村地域は農業生産の場であると共に生活の場でもあるため、環境用水・地域用水は環境便益を地域にもたらします。

地域用水・環境用水の歴史

地域用水・環境用水

農業用水が慣行水利権として河川から取水されていた時代では、河川に流水がある限り自由に取水することができました。

しかし、1964年の新河川法の施行以降、農業用水の水利権は灌漑用水に限定されました。

そのため、農村地域で活用される水が減ってしまい、混住化に伴う水環境の悪化・生態系への配慮から、灌漑用水以外の通水を望む声が多くあがりました。

そこで、国土交通省は2016年に「水質、親水空間、修景など生活環境または自然環境の維持、改善を図ることを目的とした用水」「環境用水」として水利権を付与しました。(環境用水に係る水利使用許可の取扱いについて

農業用水において、この環境用水を地域用水とも呼びます。

環境用水等の新たな用水の取得に係る調査・調整・施設整備に対して、地域水ネットワーク再生事業で支援されています。

環境用水については、他の水利使用との間で調整を図ることが重要なことから、許可期間は原則3年を限度とし、3年毎に新たに見直されます。

地域用水・環境用水の実例

加賀野八幡神社 水路

地域用水・環境用水の実例として、以下のものが挙げられます。

【地域用水・環境用水の実例】

  1. 冬水田んぼ
  2. せせらぎ水路

地域用水・環境用水の実例① 冬水田んぼ

冬水田んぼ

「冬水田んぼ」は、稲刈り後の休耕期間に田を湛水状態にしておく農法です。

農繁期のみ取水が許されていたため、冬水田んぼを実施することができませんでしたが、地域用水・環境用水として取水することで実施できるようになりました。

寒い季節に水を張り続けることで低い温度でも活動する酵母や乳酸菌などの微生物が増殖するため、田の表層に土壌の粒子が細かくなった「トロトロ層」と呼ばれる層ができます。

「トロトロ層」に棲む生物を食べる小動物の生息場になります。

減っていく湿地の代わりに水鳥などの生息域としても活用されている事例もあります。

生態系への配慮だけではなく、土壌の肥沃化・雑草の抑制・害虫の防除・地下水涵養にも大きな効果があります。

この冬期湛水に関わる「エコファーマー認定」を受け、環境保全型農業直接支援を受け、ブランド米を作っている事例も散見されます。

地域用水・環境用水の実例②せせらぎ水路

せせらぎ水路

せせらぎ水路とは、水辺空間を通して人と自然が共生するため、親水を目的とした人工水路のことです。

良質な農村景観を提供し、地域の生態系や農業用水の質を向上させることに貢献しています。

農村地域の混住化による農業用水路へのゴミのポイ捨て・排水の流入などによって、農業用水の水質悪化が発生しました。

そのため、集落内水路のパイプライン化による水路改修が推進されています。

しかし、水路のパイプライン化によって集落内のオープン水路が失われることで、良好な農村景観・親水体験が損なわれました。

そこで、パイプラインからせせらぎ水路に地域用水・環境用水を導水することで、今まで通りの良好な農村景観・親水体験を維持することができます。

公園内にせせらぎ水路が施工される例、パイプライン化された水路の上を公園化してせせらぎ水路が施工される例が散見されます。

北海道恵庭市

梅花藻 水面

茂漁川を整備した「せせらぎ水路」があります。

バイカモが白い花を咲かせ、地元住民や訪問者に親水空間を提供しています。

この水路は、自然の土や石を用いて川底を再生し、水際に柳などを植えることで、生態系の保全と美しい景観の創出に寄与しています

岐阜県羽島市

木曽川犬山頭首工から取水される農業用水「羽島用水」は、水質悪化を防ぐために行われており、開水路をパイプライン化して地中に埋めることで、ゴミの投棄や雑排水の流入を防いでいます。

その上部を「羽島用水せせらぎ水路」として平成16年度に整備し、水辺の散歩道が整備されました。

農閑期(11月〜4月)の間は水量が足らないので、下水を浄化処理した水を使用しており、農業集落排水施設をフル活用しています。

まとめ

北部浄水公園 全景

地域用水・環境用水について、冬水田んぼ・せせらぎ水路などの実例を含めて解説しました。

「のうぎょうとぼく」の中では、農業土木に関する豊富な記事を書いています。

農業土木について勉強できる本については下記にてまとめていますので、ぜひご覧ください。