交配することなく繁殖することを無性生殖、性があり交配して繁殖することを有性生殖といいます。
無性生殖が有性生殖よりもコストがかかるのに、有性生殖が選択されています。
この「有性生殖のパラドックス」についてまとめます。
有性生殖のパラドックスとは?
有性生殖・無性生殖のどちらの繁殖方法が有利であるかを考えると、短期的には無性生殖が有利である。
雄が子を産まない有性生殖よりも、全個体繁殖ができる無性生殖の方が繁殖能力が高い。
異性を探すのに時間・エネルギーが必要で、交配中に捕食される危険が伴うなど、有性生殖を選択することで発生する不利益を「有意生殖のコスト」といいます。
無性生殖を行う生物も、環境条件の悪化に伴って、雄を作り出し有性生殖を行う種も存在します。
有意生殖はデメリットのコストがあるにも関わらず、多くの生物が有性生殖を選択しており、これを「有性生殖のパラドックス」といいます。
なぜ有性生殖のパラドックスが起きるか?:無性生殖のデメリット
無性生殖できる種は、環境条件が整っていれば、近縁の有性生殖種を駆逐してしまうので、有性生殖のコストは無視することができません。
しかし、無性生殖には大きなデメリットがあります。
同じ個体の配偶子を融合させるため、どの遺伝子座もヘテロ接合体(Aa)からホモ接合体(AA・aa)に変化していき、ヘテロ接合体が毎世代半減していきます。
そのため、遺伝的な質の低下をもたらし多くの劣勢有害遺伝子がホモ接合体になるので、無性生殖には個体に有害な効果を及ぼす「近交弱勢」が生じる大きなデメリットがあります。
この有害遺伝子については、「マラーのラチェット」「コンドラショフ効果」でも説明されています。
「マラーのラチェット」では、無性生殖は突然変異がおきてその有害遺伝子が消えない限り、有害遺伝子は消えずにずっと子供に受け継がれてしまうことが示されています。
「コンドラショフ効果」では、有害遺伝子の「閾値」のようなものがあって、無性生殖はその閾値ギリギリになる「綱渡り」状態の個体が除去できないことが示されています。
これらから、有性生殖が有害な突然変異を生物集団から取り除く方法として進化したと考えられます。
なぜ有性生殖のパラドックスが起きるか?:有性生殖のメリット
無性生殖の悪いところばかり紹介したが、有性生殖の良い点もわかっています。
有性生殖の方が無性生殖よりも遺伝子の多様性が高く、多用性が高いことによって寄生者からの侵略に耐えうるという「赤の女王仮説」があります。
寄生者(病原性細菌・ウィルスや寄生虫等)と宿主の間での恒常的な軍拡競争において遺伝子レベルでの「赤の女王仮説」が働き、予測不可能な環境変化に適応できる能力を維持するために、多くの遺伝的変異を保有することになったのです。
また、有性生殖の方が環境の変化に適応した遺伝子が個体群内に広まりやすい点も挙げられます。
適応進化が加速され、環境により順応しやすくなります。
赤の女王仮説についての詳細は下記記事でまとめていますのでご参照ください。
まとめ
生態学における「有性生殖のパラドックス」についてまとめました。
生態学についてより深く勉強するのに、おすすめの書籍をまとめていますのでご参照ください。