複雑な生態系・生物多様性を理解するには、フレームワークを活用します。
非常に複雑なメカニズムが働いているので、どのような切り口で分析するのかを決定する手法・モデルが重要です。
森林生態学においては、「ジャンゼン・コンネル仮説」の概念を理解することが必要ですので、その知識についてまとめます。
目次
ジャンゼン・コンネル仮説について

ジャンゼン・コンネル仮説(J‐C仮説)は、熱帯多雨林の著しい多様性が維持される機構を、親木の近くでは同種より他種が更新しやすいことで説明する仮説です。
Daniel Hunt JanzenとJoseph Hurd Connellが同時期に提唱したため、二人の名を冠しています。
種特有の寄生者・捕食者・病原体などによって、親に近いほど種子散布密度が高いにも関わらず、種子・実生の生存確率が低くなります。
「種特異的な天敵によって、成木からの距離や子個体密度依存的に成木と同種の子個体が死亡すること」をJanzen-Connell効果(J-C効果)とも呼びます。
畑作でいう「連作障害」のような状態といえるかもしれません。
そのため、色々な樹種がバラバラに分布して、モザイク状に森林の多様性が保たれるのです。
外敵の存在・多様な分布が、他樹木種との共存・生態系全体の多様性を享受し、相互間作用の複雑さを創造しています。
ダニエル・ハント・ジャンゼン(Daniel Hunt Janzen)
ダニエル・ハント・ジャンゼンは、1989年にコスタリカ国立生物多様性研究所 (INBio) の設立に尽力した、熱帯を専門にするアメリカの生物学者です。
熱帯雨林での樹木の観察から「幼木が親木の近くにほとんど生えていない」ということに気づきます。
“Herbivores and the Number of Tree Species in Tropical Forests.”(1970)にて提唱し、種子が成熟する確率や苗木が生き残る確率を、親木からの距離の関数として示すモデルを作成しました。
ジョセフ・ハード・コネル(Joseph Hurd Connell)
ジョセフ・ハード・コネルは、潮間帯における岩礁生態系をモデルに中規模撹乱仮説を提唱した、アメリカの生態学者です。
コネルオーストラリアクイーンズランド州の熱帯雨林で、「小さな苗木は単一種の群生になる傾向がある」「近くに同一種の個体があると小さな苗の致死率が顕著に高い」ことを観察します。
別の実験では、発芽前の捕食は、同じ種の成木の近くにある種子の方が、他の種の成木の近くにある種子よりも大きいことを発見しました。
日本におけるジャンゼン・コンネル仮説の実証例

熱帯多雨林においてジャンゼン・コンネル仮説が提唱されましたが、日本の温帯林を構成する多くの樹種でもジャンゼン・コンネルメカニズムが適応できることが証明されています。
- イタヤカエデ:Maeto K, Fukuyama K (1997) Mature tree effect of Acer mono on seedling mortality due to insect herbivory. Ecological Reseach, 12:337-343
- ウワミズザクラ:Seiwa K, Miwa Y, Sahashi N, Kanno, H, Tomita M,Ueno N, Ymazaki M. (2008) Pathogen attack and spatial patterns of juvenile mortality and growth in a temperate tree, Prunus grayana.Can. J. For. Res. 38: 2445_2454.
- ミズキ・アオダモ・ホオノキ・ブナ・クリ:Yamazaki M, Iwamoto S, Seiwa K. (2009) Distanceand density- dependent seedling mortality caused by several fungal diseases for eight tree species. Plant Ecology 201:181_196.
ジャンゼン・コンネル仮説が適用されないと想定される条件について

ジャンゼン・コンネルモデルがが常に成立するわけではありません。
ジャンゼン・コンネル仮説が適用されないと想定される条件は、以下の4点挙げられています。
【ジャンゼン・コンネル仮説が適用されないと想定される条件】
- 菌根菌により防御される場合
- 明るい大きなギャップ下の場合
- ジェネラリスト>スペシャリストの場合
- 人工で植林した場合
①菌根菌により防御される場合
アーバスキュラ一菌根菌(AM)・外生菌根菌(ECM)の菌糸ネットワークによって、母樹に近い方が感染する機会が多く、同種の実生更新が促進されることが分かっています。
宿主である樹木を栄養を吸収・根の保護作用を促進され、ジャンゼン・コンネル仮説の真逆の現象です。
マツ・ブナなど外生菌根を持つ樹木は、ジャンゼン・コンネルモデルの適応外である事例が多く見られます。
②明るい大きなギャップ下の場合
閉鎖された森林環境で撹乱がない場合は、ジャンゼン・コンネル仮説に従う場合が多いです。
しかし、ギャップが発生した明るい場所では成立しにくいことが分かっています。
熱帯雨林のような成熟した環境だと、同種間の競合が活発になることも起因しているかもしれません。
③ジェネラリスト>スペシャリストの場合
ジャンゼン・コンネル仮説では、天敵側が種特異性があるスペシャリストであることを想定しています。
しかし、ジェネラリストばかりである環境では、成木下の実生は同種・他種関係なく攻撃されることになり、モデルが成立しません。
ジャンゼン・コンネル効果が働いていても、観測できないだけかもしれません。
④人工で植林した場合
一様に同種のみが広がっている森林はレアケースですが、人間が植樹した人工林では一般的な状態です。
植樹・下狩り・間伐など人の手で管理されていれば、ジャンゼン・コンネル仮説に従わない森林が出来上がります。
昔は管理されていたが現在放置されている場合も、その名残が今も確認できます。
まとめ

「ジャンゼン・コンネル仮説」についてまとめました。
ジャンゼン・コンネル仮説についてより詳細に議論されているものを参照したい場合は、下記論文を閲覧ください。
生態学についてより深く勉強するのに、おすすめの書籍をまとめていますのでご参照ください。