種特有の生物の生活史を知ることで、どのような淘汰圧の作用を受けて進化してきたのか推定する鍵になります。
非常に複雑なメカニズムが働いているので、どのような切り口で分析するのかを決定する手法・モデルが重要です。
植物の生活史戦略について、C-S-R三角形理論(CSR戦略)と呼ばれるモデルについて紹介します。
目次
C-S-R三角形理論とは
C-S-R三角形理論(C-S-R Triangle theory)は、植物の生存戦略を分類し理解するためのフレームワークです。
CSR三角形は、「CSR戦略」「CSRモデル」とも呼ばれます。
1977年にイギリスの生態学者ジョン・フィリップ・グライム(John Philip Grime)によって提唱されたモデルで、植物の生活史戦略を支配する重要な淘汰圧を「①競争competition」「②ストレスstress」「③撹乱disturbance」の3つであると示しました(Grime, J. P. (1977). Evidence for the existence of three primary strategies in plants and its relevance to ecological and evolutionary theory. The american naturalist, 111(982), 1169-1194.)。
ストレスと撹乱の二軸を取ると、ストレスが強く撹乱の大きい場所に生育できる植物はないため、三角形のどこかに分類されることになります。
この3つの淘汰圧の作用によって、以下の3つの生活史戦略に大別できます。
- 競争戦略(Competion strategy)・競争種(Competitors)
- ストレス耐性戦略(Stress torerance strategy)・ストレス耐性種(Stress-tolerators)
- 撹乱依存戦略(Rideral strategy)・撹乱依存種(Ruderals)
C-S-Rは、この3つの戦略型の頭文字をとっています。
競争戦略(Competion strategy)・競争種(Competitors)
競争戦略(Competion strategy)・競争種(Competitors)は、ストレスが小さく撹乱が少ない生育場所に適応した戦略をとる種です。
競争とは資源の奪い合いで、光・水・栄養塩など減少・枯渇する対象が資源となります。
光合成に有利な大きな葉・茎・根などの生産機能が非常に高く、光・栄養素などの豊富なリソースを効率的に利用して生長できる資源獲得能力に秀でているので、生存競争が激しい環境でも優位に立つことができます。
樹木のように最終遷移の極相林がこれに該当します。
ストレス耐性戦略(Stress torerance strategy)・ストレス耐性種(Stress-tolerators)
ストレス耐性戦略(Stress torerance strategy)・ストレス耐性種(Stress-tolerators)は、ストレスが強く撹乱の小さい生育場所に適応した戦略をとる種です。
高山・乾燥地・栄養分が乏しい土地・日照不足地・pHの高低が著しい土地など、厳しい生育条件下において、特定のストレスにのみ適応しています。
ストレスが制限要因となって利用できる資源が少ないので、成長速度が遅く、常緑性で寿命の長い葉を持つのが一般的です。
乾燥ストレスに適応した「多肉植物」、光量不足に適応した「下層植生」、塩類過多・酸素不足ストレスに適応した「マングローブ林」などが例として挙げられます。
撹乱依存戦略(Rideral strategy)・撹乱依存種(Ruderals)
撹乱依存戦略(Rideral strategy)・撹乱依存種(Ruderals)は、ストレスが小さく撹乱の大きい生育場所に適応した戦略をとる種です。
撹乱には、河川氾濫・山崩れなどの自然災害、マツ枯れなどの伝染病、森林伐採・野焼き・踏みつけなどの人為的撹乱などがあります。
一年生植物のように短期間で生活環を完了し、短期間の種子生産に資源を大きく割きます。
生息環境の急変時に他の種よりも迅速に環境を占有できるように、種子の時間的・空間的散布能力が大きいのも特徴です。
植生の一次遷移におけるパイオニア種(先駆種)に見られるような土壌中・樹上にシードバンクを形成する種では、予測不可能な撹乱に幅広く対応できます。
参考ページ:植物群集が極相へと変化する「植生遷移」について
湿地性植物・水田雑草・草原などが例として挙げられます。
近代化した現在では、人間による防災対策によって洪水・山崩れなどの自然撹乱が減少しているため、下刈り・浚渫・野焼きなど人為的撹乱を保全的に実施しなければなりません。
まとめ
C-S-R三角形理論(CSR戦略)についてまとめました。
生態学についてより深く勉強するのに、おすすめの書籍をまとめていますのでご参照ください。