滋賀県近江八幡市の水郷は、茨城県の潮来・福岡県の柳川とともに「日本の三大水郷」と呼ばれるほどの水郷の町で、船頭が櫓と竿で巧みに操る舟に乗る「水郷めぐり」が有名です。
その水郷の中心となっているのは、琵琶湖最大の内湖「西の湖」になります。
近江八幡の水郷めぐりを楽しむなら、西の湖についてぜひ知ってほしいと思い、情報をまとめました。
「西の湖」とは
「西の湖」は、琵琶湖最大の内湖で面積約222ha、水深は1.5mほどで、約3kmの長命寺川を通して琵琶湖につながっています。
西の湖周辺はヨシ原を主体とする広大な湿性植物群落が109haほどあり、動植物の貴重な生息・繁殖の場です。
貴重種に選定されている植物は17科26種、鳥類は37科124種の生息が確認されています。
ヨシ原には晩秋から冬にかけて水鳥が多く訪れるため、2006年には西の湖一帯は鳥獣保護区に指定されました。
WINTER BIRD WATCHING(冬の野鳥観察会)を開催し、西の湖にやってくる渡り鳥を観察できます。
カバーフィッシングの聖地でもあり、トム・ソーヤというレンタルボート店に全国から多くの釣り師が集まります。
西の湖一体に広がるヨシの群生は「江州ヨシ」と呼ばれ、すだれ・ヨシ葺き屋根・座敷の建具・衝立などに加工されています。
滋賀県がヨシ群落保全条例を1992年に制定し、西の湖周辺のヨシ群落が保全区域に指定されたことを受けて1993年からヨシ群落保全事業を開始しました。
近江八幡葭生産組合・東近江水環境自治協議会などによって、冬場(12月~3月)のヨシ刈り・春(3月~4月)のヨシ焼きなど伝統的手法による管理が続けられており、内湖と共生する地域住民の生活と深く結びついた水郷の景観が未だに残されています。
この貴重な水環境を保全するために、西の湖を中心に以下のものに登録されています。
【西の湖周辺で登録されているもの】
- ラムサール条約湿地:西の湖と長命寺川
- 重要里地里山(生物多様性保全上重要な里地里山):白王・円山
- 日本の里100選:白王・円山
- 国の重要文化的景観:近江八幡の水郷
西の湖へのアクセス
- 所在地:滋賀県近江八幡市安土町下豊浦4187-3
- 公共交通機関:JR琵琶湖線「安土駅」から徒歩約15分
・タクシー:タクシーアプリ「GO」
・レンタカー:skyticketレンタカー - 車:名神竜王ICから約30分、彦根ICから約40分
ラムサール条約湿地「西の湖・長命寺川」について
1993年にラムサール条約湿地として琵琶湖が登録されましたが、内湖については範囲外とされました。
そのため、総面積2,902haで37の内湖が、開拓によって総面積425haで23の内湖に減少してしまいます。
そこで内湖の重要性が見直され、琵琶湖につながる23の内湖全体の面積の半分を西の湖が占めることから、西の湖周辺を保全する動きが活発になりました。
そこで、西の湖周辺と長命寺川一帯が「重要文化的景観」の全国第1号に選定されたことを契機に、条約登録の基準を満たすために2006年に西の湖一帯が鳥獣保護区に指定されたほか、近江八幡市・安土町の首長が連名でラムサール条約湿地への登録申請がされます。
その結果、2008年10月30日に開催された第10回ラムサール条約締約国会議にて、「西の湖・長命寺川」の登録認定証が授与されました。
登録面積は、西の湖と琵琶湖をつなぐ長命寺川の流域を合わせた382haです。
ラムサール条約湿地としての琵琶湖は、ほぼ全域が自然公園法にもとづく国定公園の特別地
域に指定されているので、西の湖も国定公園の中に入っています。
重要里地里山&日本の里100選「白王・円山」について
環境省は、さまざまな命を育む豊かな里地里山を、次世代に残していくべき自然環境の1つであると位置づけ、「生物多様性保全上重要な里地里山(重要里地里山)」を500箇所選定しました。
生物多様性について、以下の3つの選定基準を元に評価し、「3つの基準のうち2つ以上の基準に該当」することを選定条件としています。
【重要里地里山の選定基準】
- 基準1:多様で優れた二次的自然環境を有する
- 基準2:里地里山に特有で多様な野生動植物が生息・生育する
- 基準3:生態系ネットワークの形成に寄与する
白王・円山は、選定基準1・2に該当しているため、選定されました。
【白王・円山選定理由】
琵琶湖最大の内湖、西の湖の北西に位置し、湖を中心に水田や里山が一体にまとまっている水郷地帯から八幡山を含む地域が対象である。
湖岸に広がるヨシ原は、地域住民の生活と結びついた伝統的な管理が続けられ、ヨシ原特有の湿地生態系が保たれている。また、市のシンボルである八幡山では、環境整備等による里山再生が行われており、一帯では、カシラダカやノスリ、チョウゲンボウなど里地里山に特徴的な鳥類が多く確認されている。
また、同地区は「朝日新聞創刊130周年」と「森林文化協会創立30周年」の記念事業である「にほんの里100選」に選ばれています。
4月1日~11月末日まで水郷めぐりで船に乗ることができるので、「水郷の里まるやま」をアソビューでネットでチケットを買うことができます。
国の重要文化的景観「近江八幡の水郷」について
ヨシ産業などの生業や内湖と共生する地域住民の生活と結びついて発展したものであり、価値の高い文化景観を形成していることから、西の湖及びその周辺のヨシ原の自然環境が、文化財保護法に基づく「重要文化的景観」の第1号として2006年1月に選定されました。
その後、円山・白王の集落・里山・その周辺の水田も追加で選定され、約354haが「近江八幡の水郷」として選定されています。
文化的景観の定義は、「地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国の生活又は生業の理解のために欠くことのできないもの」となっています。
「重要文化的景観」に選定された理由は、以下の4つです。
- 内湖とヨシ原などの自然環境が、ヨシ産業などの生業や内湖と共存する地域住民の生活
と結びつき、価値の高い文化的景観を形成している。 - 干拓やほ場整備によって内湖の多くが農地化され、湿地生態系の衰退やヨシ葺屋根等の
減少に伴う景観の改変が著しく、文化的景観の変容が危惧されていることから、早急な
保護が必要である。 - 文化的景観を未来に引き継ぐために、「近江八幡市風景づくり条例」を制定し、これに基づく「風景づくり協定」や「風景づくり委員会」等への地域住民の参加・参画を通じて、文化的景観の保護に向けた積極的な取り組みを図ろうとしている。
- 重要文化的景観になるため、近江八幡市は景観行政団体となり、景観計画を策定するな
ど、必要な条件が整った。
まとめ
近江八幡水郷めぐりの中心となるラムサール条約湿地「西の湖」について、以下のようなものに登録されており、貴重な水環境であることを紹介しました。
【西の湖周辺で登録されているもの】
- ラムサール条約湿地:西の湖と長命寺川
- 重要里地里山(生物多様性保全上重要な里地里山):白王・円山
- 日本の里100選:白王・円山
- 国の重要文化的景観:近江八幡の水郷
徒歩で散策も可能ですが、船に乗ってみるのも風情があって楽しいです。
ぜひ、近江八幡の水郷めぐりのために「西の湖」を訪問してみてください。