農業は1年に1作しかできないものが多く、圧倒的に経験・知識が不足してしまいます。
農業に従事し続けるには、勉強し常に新しい知見を学ばねばなりません。
勉強方法として、業界セミナー・先進地訪問・普及員による指導などありますが、私は本・業界誌・論文などを用いて勉強することが好きです。
その一環として『農業のマーケティング教科書』を読みましたので、書評・要約のように綺麗に整理できていませんが、感想・勉強になった内容をまとめてみます。
目次
『農業のマーケティング教科書』とは?
読みやすさ | |
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専門性 | |
役立ち度 |
- 著者:岩崎 邦彦 (著)
- 出版社:日本経済新聞出版
- 発売日:2017/11/3
- ページ数:216ページ
【目次】
- 第1章 農業を再定義しよう
- 第2章 農業にマーケティング発想を
- 第3章 品質を決めるのは消費者である
- 第4章 うまくいっている農家にはどのような特徴があるのか
- 第5章 どうやって強いブランドをつくるか
- 第6章 「違い」が価値になる
- 第7章 どうすれば六次産業化は成功するのか
- 第8章 農業の体験価値を伝えよう
- 第9章 さあ、前に踏み出そう!
『農業のマーケティング教科書』は、生産者目線をいかにして消費者目線に変え、消費者を引きつける農産物を作ることができるのかを教えてくれる農業マーケティングのテキストです。
著者の岩崎氏は東京農大で農業経済学の博士号をとった農業経営の専門家であり、静岡県立大学岩崎研究室による全国規模の消費者調査・生産者調査のデータベースと、著者自身が携わってきた農の地域ブランド開発や六次産業化の事例を盛り込んでいます。
- 消費者は何を求めて「食」を購入するのか
- そもそも「品質」とは何か
- 「おいしさ」を消費者にどう伝えるか
- いかにして「強い食のブランド」をつくるか
など、生産者や食ビジネス関係者に関心の高い論点を盛り込んでいます。
『農業のマーケティング教科書』を読んで勉強になったこと

『農業のマーケティング教科書』では、「どうすれば効果的に食と農をつなぐことができるのか」がメインテーマです。
農産物の品質を決めるのは作る人ではなく「食べる人」で、21世紀の農業は農産物を作って終わりではなく、消費者を引きつけなければなりません。
そのために必要な知識を、9章をかけて説明されています。
章ごとに重要だと思った箇所をまとめてみます。
第1章 農業を再定義しよう
「人口1人あたりの農産物・食糧品の輸出額」の世界ランキングトップ10に入っている国の中で、世界幸福度ランキングトップ10に入っている国は5つあります。
これらのことなどから、農や食に関する産業の相対的な地位が高い国は幸福度が高い傾向です。
日本の「人口1人あたりの農産物・食糧品の輸出額」は117位、幸福度は51位と伸び代があります。
また、全国の消費者調査データを用いることで、「農業を身近に感じる人ほど幸福度が高い」「食生活と農業の距離を近く感じている人ほど幸福度が高い」と分析できます。
第2章 農業にマーケティング発想を
農業マーケティングとは、「食」と「農」をつなぎ、顧客を生み出す活動です。
消費者は、「食」と「農」の境界線はなく、両者が一体化しています。
生産者目線から強制的に消費者目線に変える方法とし、以下の5つが挙げられています。
- 「売る」という言葉を禁句にし、「買う」と言い換える
- 「何」ではなく、「なぜ」で発想する
- 「食べるモノ」ではなく、「食べるコト」をイメージする
- 「農産物をつくる」ではなく、「顧客をつくる」と考える
- 小売店に行って、自分が生産した農産物を自腹で買ってみる
第3章 品質を決めるのは消費者である
「美味しいか、美味しくないか」を決めるのは、生産者ではなく消費者です。
消費者に伝わらない品質を上げても、生産者が自己満足するだけで、顧客満足は変わりません。
消費者が感じる品質(知覚品質)を高めるためのポイントとして、以下のものを挙げています。
- ブランド
- ラベル・パッケージ
- 見た目
- 美味しさの言語化
- 生産ストーリー
- 合わせ販売
- 陳列
- 価格
第4章 うまくいっている農家にはどのような特徴があるのか
農業者の業績の違いが何から生じるのか、469の農業者を調査しています。
業績にプラスの影響を及ぼしている要因として、5つ挙げられています。
- 消費者と交流をしている、消費者の声を聞いている
- 価格競争に巻き込まれにくい
- 安定的な販売先を確保できている
- 核(シンボル)となる商品がある
- 女性の力を積極的に活用している
第5章 どうやって強いブランドをつくるか
ブランドは、品質・価格を超える存在で、買い手の頭の中に浮かぶイメージです。
「知名度を上げる」「品質を高める」「広告宣伝費をかける」「ロゴをつくる」「数の多さを売りにする」では、ブランドを築き上げることはできません。
消費者調査・経営者調査から、強いブランドに共通する6つの特性が紹介されています。
- ブランドイメージが明快である
- 感性に訴求している
- 独自性がある
- 価格以外の魅力で顧客を引きつけている
- 情報発生力がある
- 口コミ発生力がある
第6章 「違い」が価値になる
消費者のニーズの多様化・個性化・成熟化によって、他との違いが「価値」になる時代です。
顧客に伝わる個性を生み出す方法として、以下の15つが挙げられています。
- 「味覚、香り、食感」
- 「形状」
- 「サイズ」
- 「色」
- 「パッケージ」
- 「生産方法・栽培方法」
- 「肥料・餌」
- 「品質基準」
- 「生産場所」
- 「ずらし」
- 「ストーリー」
- 「利用シーン」
- 「用途の限定」
- 「売る場所」
- 「逆張り」
ダメな違いの出し方として、「一本のモノサシでしか測ることができない違い」「消費者が気づかない違い」「消費者にとって価値のない違い」が挙げられています。
第7章 どうすれば六次産業化は成功するのか
六次産業化は、農産物の生産(一次産業)×加工(二次産業)×流通販売(三次産業)全てを手がけることです。
加工まで手がけることで、付加価値が高まるので収益性が向上し、農産物のブランド力向上も期待できます。
加えて自ら販売に関与すれば、価格決定権を手に入れることができ、消費者との結びつきも強化されます。
六次産業化の成功要因として、3つのポイントが挙げられています。
- 独自性がある
- 販売チャネルの確保
- 高品質・安心安全
ロングセラー商品を生み出すには、「美味しすぎない」「変わらないものと変わるもののバランス」「近視眼にならない」が求められます。
第8章 農業の体験価値を伝えよう
農産物を「食べる」だけでなく、農に関する「体験」が価値を持つようになります。
例えば、農村観光、農場訪問、果物・野菜の収穫体験、生産者との交流、貸し農園、農家レストラン・カフェなどの重要性が増します。
消費地に販売促進に行くよりも、産地訪問をしてもらうと「愛着向上効果」「ブランド・イメージ向上効果」「需要促進効果」「口コミ促進効果」が得られます。
農村と観光は極めて親和性が高く、農村観光に魅力を感じる人々は以下の5つの要素を持っています。
- 「現地の人々との出会い・交流」を重視している
- 「自然」を重視している
- 「学び」を重視している
- 「体験」を重視している
- 「その地域ならではの商品や食」を重視している
農家レストランは、「生産意欲喚起」「消費者ニーズ把握」「情報発信」「口コミ発生」「付加価値向上」「素材の有効活用」「農産物売上向上」「ブランド力向上」を向上させることができます。
農家レストランに引かれる人々は以下の6つの要素を持っています。
- 小規模店志向である
- 健康志向である
- 食の口コミ発信源である
- グルメ志向である
- 環境志向である
- リピート志向が強い
第9章 さあ、前に踏み出そう!
農業の現場では、農業者の前向きなチャレンジの阻害要因となり、マーケティングの失敗を招きかねない「誤解・注意すべき発想」があります。
- 「〇〇離れだから、厳しい」
- 「後継者がいないから、厳しい」
- 「規模が小さいから、競争力がない」
- 「経営改善をすれば、強くなれる」
『農業のマーケティング教科書』を読んで今後勉強すべきこと

『農業のマーケティング教科書』を読むことで、農業におけるマーケティングの基礎について理解することができました。
農業にもマーケティングを持ち込むことで、農産物を付加価値をつけて売ることができるようになると思います。
ユーザーのニーズを把握するために、古典的名著『ドリルを売るには穴を売れ』を読んでみました。
古典だけでなく、最近では森岡毅氏が日本のマーケティングをリードしているので、森岡毅氏の名著『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門』を読んでみます。
まとめ
『農業のマーケティング教科書』を書評・要約のようにまとまっていないかも知れませんが、感想・内容を紹介しました。
まだまだ勉強不足ですので、これらからもしっかり勉強していきます。
最新の農業情報を得るためには、本だと出版までのタイムラグがあるので、農業の専門雑誌を読むほうがおすすめです。
毎月購入すると結構コストがかかってしまうので、ネットで農業雑誌・家庭菜園誌が読み放の「楽天マガジン」がおすすめですので、利用してみてください。