最近、肥料・飼料の価格が高騰しており、農業・畜産業・漁業に大きな影響を与えています。
政府は肥料コスト上昇分の一部を支援する「肥料価格高騰対策事業」を実施しています。
政府も対策に乗り出しているのですが、倒産・解散する事業者が急増しているのが実態です。
地方自治体・国が現状を打開するのは難しいため、自分で対策するしかありません。
肥料・飼料の価格が高騰する原因を考えながら、個人でも立ち向かえる対策をまとめました。
肥料・飼料の価格高騰する原因について
引用:農水省HP 海外食料需給インフォメーション「穀物等の国際価格の動向」
引用:農林水産省 肥料関係情報 「肥料をめぐる情勢」
肥料・飼料の価格高騰は、需要と供給のバランスが大きく変化することが主な原因です。
また輸入商品である場合は、輸入コスト・円安によっても価格が高騰します。
2021年から続く肥料・飼料の高騰は、ベラルーシに対する経済制裁・中国の輸出規制・ロシアのウクライナ侵攻により、世界有数の肥料輸出国からの輸出が停滞し、限られた代替ソースに世界中から需要が集中したためです。
化学肥料については、尿素94%・塩化カリウム80%の値上げがJA全農より発表されました(JA全農HP)。
肥料・飼料の価格高騰する原因を、①需要増加②供給減少③コスト高④円安の4つに大別して深掘りしていきます。
①需要増加
引用:農林水産省 海外食料需給インフォメーション
肥料・飼料の要給増加の主な要因として、世界人口の増加・人々の生活模様の変化などが挙げられます。
2020年に約78億人であった世界人口は、2050年には91億人にまで増加することが示唆されています(World Population Prospects 2019)。
急な人口増加を支えるため、農業・畜産業・漁業を無理にでも拡大していく必要があり、肥料・飼料の需要が増加することが予想できます。
発展途上国で人口増加が顕著であり、産業化・都市化が進んでいくことで、食品の消費量がより増加します。
世界的な穀物需要の増加よって、今後も恒常的に肥料・飼料が増加していくことが想定されます。
②供給減少
引用:農林水産省 肥料原料の安定確保に関する論点整理 参考資料
肥料や飼料の供給減少の原因として、輸出規制・天候不順・気候変動・資源の枯渇などが挙げられます。
肥料・飼料の国内需要が増加すると、国内市場への供給を優先するために一時的に輸出規制実施します。
中国は、輸出を締め付けるため、尿素やリン酸肥料など化学肥料関連の29品目について21年10月15日から化学肥料の輸出に「法定検査」制度を緊急導入しました。
また経済制裁に抵抗するために輸出規制も実施されます。
ロシアは、窒素肥料の輸出制限を2022年7月1日から12月31日まで導入することで、ウクライナ侵攻による経済制裁に対抗しました。
また、天候不順・気候変動・資源の枯渇など環境要因によっても供給量が減少します。
台風・ハリケーン・干ばつ・豪雨などの自然災害によって収穫量が短期的に減少すること、平均気温上昇・採掘資源の減少などの長期的に減少することの2パターンあります。
供給減少の長期要因については想定・対処することができますが、短期要因については突発性・不確実な現象であるため対処が困難なのが特徴です。
③コスト高
肥料や飼料のコスト高の原因として、原料価格・輸送費の高騰などが挙げられます。
これは特に原油・天然ガス価格が原因の場合が多くです。
肥料の原料の1つであるアンモニアは、原油・天然ガス価格に大きく影響されます。
また肥料の運搬に利用される船舶燃料の高騰を引き起こします。
原油・天然ガス価格は、生産の増産・減産の影響や戦争などの地政学リスクの高まりで上げ下げします。
短期的な上昇もありますが、OPECの動向などの長期的なトレンドに従う傾向があるので想定・対策はしやすいです。
④円安
国内での肥料や飼料の生産量が少ないため、輸入に依存している状態です。
化学肥料の原材料の自給率は、尿素(N)は4%・リン酸アンモニウム・塩化カリウムは0%で、輸入にほぼ100%依存しています(財務省貿易統計より)。
また飼料自給率は、栄養価に換算した「TDN(可消化養分総量)」という方法で計算すると、令和元年度の飼料自給率は25%となっています。
そのため円安になると、肥料や飼料価格が上昇する要因になってしまうのです。
日米金融政策の相違を反映した金利差の拡大・経済不安・地政学リスクなど比較的長期のトレンドで円安は発生しやすいので想定・対策はしやすいです。
個別農家で可能な肥料・飼料の価格高騰対策について
引用:農林水産省 肥料関係情報 「肥料をめぐる情勢」
引用:農研機構 飼料をめぐる情勢と自給飼料生産支援施策について
農業経営体当たりの経営費に占める肥料費の割合は6~13%、畜産業は40~60%になっています。
2008年・2021年と肥料・飼料の価格高騰を繰り返しているので、上記で示した肥料・飼料の価格高騰の原因が現在・未来に生じることを前提にして、個別農家で肥料・飼料の価格を抑えるための施策が必要です。
販売価格を思うように値上げできない農業において、コストを抑える対策をしないと倒産の可能性も非常に高くなってしまいます。
個別農家で可能な肥料・飼料の価格高騰対策として以下のことが挙げられます。
【個別農家で可能な肥料・飼料の価格高騰対策】
- 肥料・飼料の使用量を抑える:即効性△確実性○
- 肥料・飼料を自給する:即効性×確実性◎
- 肥料・飼料価格に連れ高する資産を保有する:即効性◎確実性×
対策①肥料・飼料の使用量を抑える:即効性△確実性○
化学肥料を堆肥・汚泥肥料などに価格を抑えた肥料を用いて、高価格な化学肥料の使用量を減らす方法があります。
地域で堆肥・汚泥肥料が安く安定して供給されているか、それに合わせた肥料設計が早急に可能なのか、など肥料を変更することの弊害は数え切れません。
特別栽培・有機栽培など農業のスタイルを大きく変更することも考えられます。
農林水産省はみどりの食料システム戦略で、「2050年までに有機農業の農地を全体の25%に増やす」「化学肥料の使用量を2050年までに30%低減する」などの目標を掲げているので、サポート体制はしっかりしています。
施肥の効率化・スマート化を図る「スマート施肥」を導入することで、施肥量を減らすことができます。
- リモートセンシング生育診断・土壌診断を用いた施肥量の適切化
- ドローン等を用いたムラのない施肥
施肥の最適化によって、コストダウンだけでなく収量増加も見込めます。
スマート施肥の導入費用の一部を補助する「肥料コスト低減体系緊急転換事業」などの補助事業を活用してみてください。
飼料の使用量を抑えることは、家畜の健康・生育を損なうので現実的ではありません。
そこで配合飼料から単味飼料・食品残さの飼料化した「エコフィード」など、価格を抑えた飼料を一部活用して、高価格な配合飼料の使用量を減らすことが考えられます。
飼料変更には、家畜の健康・生育にどのような影響を与えるのか知見が必須で、容易ではありません。
対策②肥料・飼料を自給する:即効性×確実性◎
肥料は家畜排泄物などの有機性資源の循環利用により、飼料は自給飼料の栽培により、自給することが可能です。
有機的肥料には、堆肥・厩肥・緑肥・米糠・藁・草木灰・藻類などが挙げられます。
自給飼料には、飼料米・米ぬか・とうもろこし・ソルガム・牧草・オーチャードグラス・クローバ・アルファルファが挙げれます。
肥料・飼料を作り出す「規模と手間」がかかりますが、確実に肥料・飼料の価格を抑えることができます。
対策③肥料・飼料価格に連れ高する資産を保有する:即効性◎確実性×
肥料・飼料価格が上がった場合のリスクを他の資産で補う方法があります。
適切なレバレッジをかければ、資産があまりなくてもリスクヘッジが可能です。
主な方法として、商品先物取引・株取引・為替取引が考えられます。
商品先物取引
商品先物取引については、農林水産省の説明を引用します。
商品先物取引とは、将来の一定期日に一定の商品を売買することを約束して、その価格を現時点で決める取引のことです。商品先物市場は、透明性があり客観的な価格の形成、価格変動のリスクヘッジなどの機能を持ち、我が国の農業者や企業の活動など経済をサポートする役割を果たしています。
引用:農林水産省 商品先物取引
小麦・コーン・大豆などの商品価格に連動するものを少額の証拠金で購入でき、将来の価格変動リスクを回避することができます。
飼料を海外のとうもろこしに依存している場合は、とうもろこしのCFDを購入することで、価格高騰分を商品CFDの値上がり分で相殺可能です。
農林水産省のHPで商品先物取引について理解すれば、商品先物取引ができる口座を開設する手間はありますが、すぐにリスクヘッジを実行できます。
商品先物取引ができる会社はたくさんありますが、農林水産省の許可業者一覧に記載されており、取引手数料が無料でコーン・大豆・原油が取引でき、LINEでいつでも問い合わせかのうなるDMM CFDがおすすめです。
株取引
肥料・飼料価格が高騰することで、肥料・飼料を取り扱っている会社の業績は良くなり、その会社の株は上昇する傾向があります。
肥料・飼料を取り扱っている会社の株を買っておくことで、肥料・飼料価格高騰の恩恵が得られるのです。
肥料世界シェアトップのニュートリエン(NTR)の株価は以下のようになっています。
ニュートリエンはカナダの会社ですが、ニューヨーク証券取引所に上場している米国株として購入することが可能です。
米国だと他にはモザイク(MOS)・CFインダストリーズ・ホールディングス(CF)などがあり、日本の肥料関連企業としては片倉コープアグリ(4031)、多木化学(4025)などが上場しています。