【岐阜大学応用生物科学部】農業土木の現在と展望　～千家正照名誉教授・西村眞一教授～

農業土木は、日本の食料生産基盤を支える重要な分野でありながら、近年その存在感が薄れつつあります。

持続可能な農業と環境保全の両立が求められる現代において、農業土木の果たす役割は今後ますます重要になるでしょう。

本記事では、私の母校である岐阜大学応用生物科学部を訪問し、恩師である千家正照名誉教授と、岐阜大学で土木材料学実験などで教鞭をとられている西村眞一教授に、農業土木の現在と今後の展望についてお伺いしました。

岐阜大学応用生物科学部について

岐阜大学応用生物科学部は、生命科学や生物環境科学を基盤とした教育と研究を行い、食品・環境・健康・生物産業などの分野で活躍できる人材を育成する学部です。

実験やフィールドワークを重視したカリキュラムで実践的な学びができます。

岐阜大学応用生物科学部は、応用生命科学課程（2コース）、生産環境科学課程（3コース）、共同獣医学科の2課程5コース1学科体制でした。

• 応用生命科学課程
  ・分子生命科学コース：分子レベルで生命現象を解明し、新しい技術や理論を開発。
  ・食品生命科学コース：食品の安全性や機能性を追求し、高品質な食品開発に貢献。
  
• 生産環境科学課程
  ・応用植物科学コース：持続可能な植物生産と食料供給技術の開発。
  ・応用動物科学コース：動物資源管理や多様な動物種の保全。
  ・環境生態科学コース：自然生態系と人間社会が調和する地域環境創出の知識と技能を習得。
• 共同獣医学科（6年制）

令和7年4月にこれを再編し、4学科体制になります。

• 応用生命化学科
• 食農生命科学科
• 生物圏環境学科
• 共同獣医学科

現在は生産環境科学課程環境生態科学コースで農業土木が学ぶことができ、今後は生物圏環境学科になります。

応用生命化学科

応用生命化学科は、最先端の化学とバイオテクノロジーを融合し、生命化学の力で未来を創造する学科です。

生命現象の理解や有用物質の開発・生産など、バイオ産業の幅広い分野で活躍できる人材の育成を目指しています。

• 主な授業科目：応用生命化学基礎と生命情報科学、化学、バイオ
• 卒業後の進路：製薬・ヘルスケア・化学工業・バイオインダストリー・バイオベンチャー

食農生命科学科

食農生命科学科は、食品科学と農業生産科学を融合させた学科です。

食品の生産から消費に至る一連の過程を体系的に学び、食品の製造・加工・保蔵・鮮度保持・安全性確保についての理論や技術を習得します。

• 主な授業科目：食農生命科学基礎とデータサイエンス、植物生産科学、動物生産科学、食科学
• 卒業後の進路：食品産業・農畜関連産業・バイオ産業・農水省等技術職

生物圏環境学科

生物圏環境学科は、水・物質循環、生態系管理、動物保全を融合させた学科です。

岐阜大学キャンパス内の附属農場・美濃加茂農場・位山演習林などのフィールドを活用した実践的な実習や実験を行います。

• 主な授業科目：生物圏環境学の実践的実習とデータサイエンス、水・物質循環・生態系を理解する科学、動物の生息域内・域外保全、生物多様性保全と生態系管理技術
• 卒業後の進路：農業土木/環境コンサルタント・緑化造園業・動物園/水族館・農林水産省等の技術職

共同獣医学科（6年制）

共同獣医学科は、鳥取大学との共同運営による高度な獣医学科です。

動物病院や野生動物管理センターなど附属施設での実践的な教育を行い、動物医療・人獣共通感染症予防・食品衛生など幅広い分野で活躍する獣医師を養成しています。

• 主な授業科目：教育基礎演習、遠隔講義システムおよび学生移動型実習、スキルラボの活用および総合参加型臨床実習

インタビューを受けてくださった先生方について

岐阜大学にて、取材を受けてくださった先生方について、簡単に紹介させていただきます。

千家 正照

• 所属
  ・株式会社 ユニオン 岐阜大学研究室 研究室長 (岐阜大学名誉教授（特任教授）)
  ・応用生物科学研究科 教授
• 学位：農学博士(1985年1月 京都大学)
• J-GLOBAL ID200901079917612955
• researchmap会員ID1000022607
• 基本情報：【灌漑排水/農業水利施設の最適運用/土壌保全/水田生態系の保全/作物の水分管理】現在、農業水利施設を利用した小水力発電、調整池の水質管理、都市化が進行した広域水田地帯の反復利用構造、樹種の異なる森林流域における水文特性、裂果抑制に着目したトマトの養液栽培、発展途上国の小規模灌漑の研究テーマについて取り組んでいる。

西村 眞一

• 所属
  ・岐阜大学 応用生物科学部 応用生物科学科 生物環境科学講座 生物環境工学系 施設環境工学研究室 教授
  ・研究推進・社会連携機構次世代エネルギー研究センターエネルギー創造分野次世代生物資源応用研究開発部門 教授（兼）（応用生物科学部）
  ・連合農学研究科 教授応用生物科学研究科 教授
• 学位：博士（農学）(東京大学)
• J-GLOBAL ID200901093329236370
• researchmap会員ID1000022616
• 基本情報：農業用フィルダムの水理破砕／農業用フィルダムの漏水の原因の一つである水理破砕の原因と対策．特に地盤や堤体に生じる亀裂の発生・発達条件について実験と有限要素法により検討している．／農業用水系の効率的運用／ダムと受益地の間に中間貯留を設けることによる無効放流の軽減や降雨の有効化をシミュレーションにより検討している．

インタビュー内容

千家正照名誉教授・西村眞一教授に、約2時間半インタビューした内容を以下の項でまとめました。

岐阜大学応用生物科学部における農業土木の立ち位置

おいも屋

岐阜大学応用生物科学部における今の農業土木の立ち位置をお聞きしたいです。生物寄りなイメージがあります？

西村眞一

7・8割は動物希望の学生が入ってきています。現実的に飼育員になれる人は年に2～3人くらいなので、就職には農業土木が良いよって勧誘して、この分野に入ってくる子が多い。

おいも屋

自分は水田生態系の保全に関わりたくてこの岐阜大学を選びました。農業土木が好きという学生より、生き物関係で農業土木を選択する学生が多いと思います。学部再編成の影響でさらに生物寄りになってしまうのでは？

千家正照

農業土木の看板は見当たらない。

西村眞一

学会が出してる「農業土木が学べる大学一覧表」みたいなやつには載ってます。

おいも屋

ちゃんと調べないと出てこないのは問題ですね。

千家正照

中部地方周辺で農業土木を教育している大学は、岐阜大学・三重大学・石川県立大学・滋賀県立大学で、名古屋大学・静岡大学にはないから、この地域にとって大事。

先生たちの研究内容

おいも屋

西村先生の研究室では現在どんな研究をしていますか？

西村眞一

ダムの安定解析に関する三軸試験の取り扱いを今はやってます。

千家正照

あと、豊川用水の「芦ヶ池」っていう調整池についても。

千家正照

芦ヶ池でのアオコ発生対策もやってて、太陽光パネルを設置して遮光して抑制できないかって、ユニオンと共同研究でやってる。

おいも屋

ユニオンとの共同研究室で、農業土木を中心にいろんな研究してますね。

千家正照

位山演習林で水質調査の論文もやってました。

岐阜大学応用生物科学部で、農業土木のどんなことが学べるか

おいも屋

自分が卒業した8年前くらいは、構造力学・水文学・農地工学・測量・土質力学演習とかやっていたが、今も大きく変わりはないですか？

西村眞一

特にその頃から変わっていないな。

千家正照

色々教えれてないこともある。換地とかストマネとか。

おいも屋

水利環境学研究室（千家先生が在籍していた研究室）の卒業研究は、今どんな感じですか？

千家正照

伊藤健吾先生では、ヤゴとか生物系が多いが、水田のメタン抑制もやっている。

農業土木を勉強した学生たちの進路先

おいも屋

岐阜大学の卒業生は今どんなところに就職しますか？

千家正照

農業土木に関係する進路先には

• 農林水産省の国家総合職・国家一般職（東海農政局）などの国家公務員
• 愛知県・岐阜県などの県職員
• 名古屋市・岐阜市などの市町村職員
• 土地改良区・土地改良事業団体連合会
• 建設コンサルタント

などがあり、岐阜大学からは建設会社に就職する学生はほとんどいない。

農業土木以外を就職先に選ぶ学生が非常に多いが、生物調査などの関連でコンサルが人気がある。

おいも屋

農業土木の競争倍率はどこでも2倍を割れるような状態だから就職にはおすすめなのだけど、年々人気がない気がする。

西村眞一

うちの学部は生物色が強いから、農業土木以外の就職を選択する学生は少なくない。

おいも屋

どうしたら、農業土木を進路先に積極的に選んでもらえるか？

千家正照

技術者を育てる姿勢・人間関係が採用側に求められるのでは。

どんな学生に来てほしいのか

おいも屋

どんな学生に岐阜大学の農業土木に来てほしいですか？。

西村眞一

基本的には生物に興味のある子が主になるんだけど、工学的なことに興味を持ってくれて、理科選択が物理だと大変ありがたい。

千家正照

農業土木っていろんなことを扱わないといけない。田んぼ・畑・水・土・生物・機械とか。新しいことに興味を持って取り組んでくれるタイプの人が1番良いね。どんなことにも興味をもって勉強するっていう姿勢の子がむいているかもしれん。

おいも屋

物理に拒否反応がなければ良いね。

西村眞一

物理って言っても、式変形だけだから。不向きじゃなければ大丈夫。

千家正照

誰でもチャレンジしたらできる。

今後の展望

おいも屋

農業土木をどうしたら選んでもらって、残ってもらえるかな？就職強いアピールかな？

千家正照

学生は純粋だから、それでは難しい。面白さがこの分野にあったら良いよね。ネットで検索したらヒットして、それを見ると伝わるといいよね。

西村眞一

環境をどうにかしたいって学生はいっぱいいるから、環境を最終的にいじるのは土木だよってことを分かってもらうと。

千家正照

困ったね、農業土木。魅力を発信してくれると、我々は生き残れるかもしれない。

おいも屋

最近農業土木以外の記事ばっかりなので、頑張ってコンテンツ増やします。こういう世界もあるんだなと知ってもらいたい。

まとめ

岐阜大学の応用生物科学部の千家正照名誉教授と西村眞一教授にお話を伺いました。

ご協力頂いた先生方・広報関係の皆様による多大なご尽力によって取材をさせていただきましたこと、厚く感謝申し上げます。

「のうぎょうとぼく」で農業土木の重要性・魅力を若い世代に伝えていかなければならないと感じました。

少しでも多くのコンテンツを作成し、農業土木を学ぶきっかけづくりをしていければと思います。