岐阜県には疏水100選が2箇所あり、「瀬戸川用水」「席田用水」があります。
席田用水は農業用水であるだけでなく、ゲンジホタルの繁殖地など貴重な自然を守る水源です。
岐阜県本巣市にある「席田用水」を現地踏査してきましたので、どんな場所だったかを紹介します。
目次
席田用水(むしろだようすい)について
席田用水(むしろだようすい)は、岐阜県本巣市の山口頭首工で根尾川から取水されている糸貫川から分水している延長7.8kmの農業用水です。
山口頭首工で取水する用水は、席田用水以外にも真桑用水があり、合わせて「山口用水」と呼ばれることもあります。
江戸時代の席田用水は、本巣郡・席田郡・方県郡の40ヶ村・24,700石余を灌漑する美濃最大の用水でした(真桑用水は本巣郡・大野郡の20ヶ村・13,400石余)。
「岐阜の名水50選」に選ばれるほど水質がよく、ゲンジホタルの名所が各所にあるところが、疏水百選に選ばれる要因かもしれません。
疎水百選とは
疏水百選とは、2006年に農林水産省と疏水百選実施事務局によって、疏水を維持し「水土里(みどり)」を次世代に伝えるために選定された、全国110箇所の疎水のことです。
「疏水百選」なのですが、全国から499の応募があり、国民投票・有識者意見を踏まえ、110の疏水が選定されています(全国土地改良事業国体連合会HP)
疎水は、利水のために作られた水路・構造物で、特に農業用のことです。
歴史的な構造物だけなく、親水性に優れ、観光的意味合いが強い水路・構造物が多く選定されています。
席田用水の歴史
根尾川は水量が豊富な川でしたが、広大な灌漑地域で水はけの良い扇状地上にあるので、水不足が多発する地域です。
そのため、「席田用水の歴史は真桑用水との水争いの歴史」と言い換えることができるかもしれません。
現在はゲンジホタルの繁殖地など穏やかな雰囲気を感じますが、過去は争いが絶えない場所でした。
- 1530年(享禄3年):6月の大洪水(享禄の大洪水)によって、本流の糸貫川が藪村を押し流し、「本流の藪川(現在の根尾川)」と「支流の糸貫川」に
- 糸貫川の水量は激減して席田用水は取水が困難になるものの、真桑用水の水量は確保される
- 美濃国守護大名の土岐頼芸に対して申し出て、山口で藪川を堰止めて糸貫川へと水を通す、山口頭首工の元になる「一ノ井大堰」を築く
- 1532年(享禄5年):真桑用水側によって一ノ井大堰の破壊活動
- 土岐頼芸が真桑用水側に堰の修理を命じて、真桑用水は席田用水から分岐する形に変更
- 1625年(寛永2年):干ばつにより、美濃郡代の岡田善同が席田用水側に真桑用水側へ水の分配を申し入れるが、席田用水側は応じず
- 1637年(寛永14年):真桑用水側は、一ノ井大堰を取り壊して藪川に水を流すことを美濃郡代の岡田善政に願い出る
- 1639年(寛永16年):紛争が絶えない事態に、江戸幕府は検使団を派遣し、老中名をもって現地の支配領主(戸田左門・松平丹羽守)に対し話し合いで解決を促す
- 1641年(寛永18年):干ばつ時には真桑用水側に1日1夜(12時間)・席田用水側に2夜1日(18時間)用水を流す時間番水をすることで、4:6の割合で分水する「四分六分の積番水」を定める
- 1665年(寛文5年):双方の番水口の口幅を23間(約41.8m)にすることを定める
- 糸貫川を水源にする旧八ヶ町村と根尾川を水源にする旧六ヶ町村の対立で、流血惨事もあり、江戸時代からは幕府直轄管理へ
- 河床上昇により糸貫川の徐々に水量は減少し取水困難
- 1944年(昭和19年):根尾川からの糸貫川分派口の締め切り工事
- 1950年(昭和25年):糸貫川締め切り地点に山口頭首工と取水樋門が建造
現在でも江戸時代の慣行水利権の通り、4:6の割合の分配が守られています。
根尾川と古根尾川の関係
根尾川本流は本巣市山口から東に流れていました。
しかし、1530年(享禄3年)の大洪水による土砂の体積によって、根尾川の本流が藪川に移っています。
その影響で、元々長良川支流の伊自良川に合流する川の一部が「古根尾川・旧根尾川」と呼ばれるもう1つの根尾川が存在することになってしまいました。
そのため、根尾川は揖斐川と合流するのですが、根尾川(旧根尾川)と伊自良川の水位を調節する「根尾川排水機場」が存在する羽目になっています。
- 所在地:〒501-0101 岐阜県岐阜市曽我屋8丁目
- 公共交通機関
・電車:岐阜バス「曽我屋東」から徒歩約10分
・タクシー:タクシーアプリ「GO」
・レンタカー:skyticketレンタカー
席田用水と糸貫川の関係
上記の写真は、本巣市ほたる公園内にある杭標で、「席田用水」と書かれています。
本巣市ほたる公園から本巣市民スポーツプラザまでの約1.5kmは、「席田用水のホタル」として鑑賞スポットで有名です。
しかし、ほたる公園の前は糸貫川になっており、これはどういうことなのでしょうか。
これは「糸貫川から席田用水が分水されている」「席田用水から糸貫川が分水されている」のどちらで考えるかによって変わります。
農家ばかりだった昔は用水名で読んでいたものの、現代になって川として分類されたのでしょう。
岐阜県の河川台帳では、本巣市山口字北畑276番の3地先からから長良川合流点に至るまでの延長15,225mが糸貫川です。
公式的には上図の左が正しいことになりますが、地元では上図左の表記もあっって表記が混在しています。
席田用水に関連する構造物・施設
ここからは、現地踏査で確認した席田用水に関連する構造物・施設について紹介します。
【現地踏査で確認した席田用水に関連する構造物・施設】
- 山口頭首工・山口貯水池
- 金谷井口
- 本巣市ほたる公園
- 乙井樋門
山口頭首工・山口貯水池
山口頭首工は、根尾川を堰上げて、席田用水・真桑用水を取水しています。
慣行水利権32t/sもの取水量で、本巣市・岐阜市・北方町の農地を灌漑しています。
左岸側の洪水吐・土砂吐のゲートが老朽化に伴う改修工事がされています。
魚道も整備されており、環境への配慮が伺えます。
取水樋門からすぐ山口貯水池になります。
この取水口は「席田・真桑の番水(四分六分の分水)」と呼ばれています。
ゲートが6門ずつで、1665年(寛文5年)に定めた双方23間をを未だに守っていそうです。
1530年の大洪水(享禄の大洪水)は本巣町(現在本巣市)の史蹟として登録されていたため、石碑が席田用水側に建てられています。
- 所在地:〒501-1201 岐阜県本巣市山口
- 公共交通機関
・電車:樽見鉄道樽見線「織部駅」から徒歩約15分
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・レンタカー:skyticketレンタカー
金谷井口
糸貫川(席田用水)に分かれた直後、金谷井口の分水工にて金谷用水を取水します。
本巣市ほたる公園
本巣市ほたる公園から本巣市民スポーツプラザまでの約1.5kmは、「席田用水のホタル」としてゲンジホタルの鑑賞スポットで有名です。
糸貫川(席田用水)に沿うように、遊歩道が整備されています。
用水が農業用以外にも多面的機能を発揮している良い例です。
公園内にホタルが生息・繁殖できるように緩衝地が設けられていたり、乙井樋門より上流の水路を石積み水路にするなど、ゲンジホタルの生息環境がしっかり整えられています。
本巣市には「螢保護条例」が定められており、保護区域でのほたるの捕獲、保護期間内の保護区域内の生草の刈取りは禁止されているほどです。
席田用水周辺でのゲンジホタル鑑賞期間は、「5月中旬~6月上旬頃、午後8時から午後10時頃」がおすすめで、毎年6月上旬に「花とほたる祭り」も開催しています。
- 所在地:〒501-1205 岐阜県本巣市曽井中島1117−8
- 公共交通機関
・電車:樽見鉄道樽見線「織部駅」から徒歩約15分
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乙井樋門
乙井樋門で糸貫川から席田用水を取水します。
糸貫川に金谷用水の落水が合流して、さらに席田用水を分水する交差点のような場所です。
道の駅「富有柿の里いとぬき」の近くにあります。
- 所在地:〒501-0401 岐阜県本巣市上保18−2
- 公共交通機関
・電車:樽見鉄道樽見線「織部駅」から徒歩約15分
・タクシー:タクシーアプリ「GO」
・レンタカー:skyticketレンタカー
まとめ
岐阜県の疏水百選の1つ「席田用水」を紹介しました。
席田用水は、その歴史的背景と現代における多面的な役割から、岐阜県本巣市を代表する重要な地域資源です。
農業灌漑だけでなく、水質保全やホタル生息地としての自然保護、さらには観光資源としても注目されています。
本記事で興味を持っていただけたら、ぜひ訪問してみてください。
また、岐阜県のもう1つの疏水百選「瀬戸川用水」も現地踏査したいと思っていますので、訪れたら記事作成しますのでお待ち下さい。