静岡県は「栽培面積13,800ha・栽培荒茶⽣産量28,600t」とともに日本一産地です(参照:農水省お茶のページ)。
そんな静岡県の茶栽培は日本だけでなく世界的にも貴重な生産地で、伝統農法の「茶草場農法」が世界農業遺産に認定されています。
どんな農法なのか、その栽培を見学できるのか、栽培茶を購入できるのか、まとめてみます。
目次
世界農業遺産「茶草場農法」とは
茶草場農法は、茶園の周辺のある「茶草場」で育てたススキ・ササを刈り取り、乾かした後細かく刻んで、茶樹の畝間に有機肥料として敷く伝統農法です。
砂礫が多い土壌なので、通水性・通気性が良いのですが、保肥力が弱く流亡しやすい弱点があります。
それを敷草をする以下の効果によって、欠点を補っています。
- 豊かな腐食層など土壌環境創出
- 茶樹下層の保温・保湿
- 土壌流出防止
- 雑草抑制
また、ススキ・ササが育てられている茶草場は半自然草地であるため、動植物の生息地になっており、生物多様性の保全にも繋がっています。
良質なお茶作りと自然が共存する農業は稀有です。
そのため、2013年に世界農業遺産として認定され、日本だけでなく世界からも評価されています。
茶草場農法の効果・茶葉の品質
平成25年度に静岡県農林技術研究所茶業研究センターが実践者の生産現場の茶園土壌に
おける物理性や化学性について調査を行いました。
茶草を投入している茶園土壌は、仮比重や固相率が低い・液相や透水係数が高いなど「土壌物理性が良く」、無機態窒素量や全炭素比率が高いなど「化学性も良い」ことが示されました。
茶の品質については、味や香りが良く、品質の高い茶が生産できます。
令和4年度の全国茶品評会では、深蒸し煎茶の部で出品した茶草場農法認定茶の63%が入賞しており、茶草場農法以外のそれよりも高いです。
茶草場農法によって守られている生物
茶草場農法が伝統的に受け継がれていたため、生物の貴重な生息地に茶草場はなっています。
「毎年の草刈り」「草を外部に運び出す」ことを長年維持してきたので、競争力の弱い独特な生物種が守られています。
茶草場固有種として、「カケガワフキバッタ」「フジタイゲキ」が有名です。
掛川市東山の粟ヶ岳斜面の一部1.8haが「カケガワフキバッタ生息地・フジタイゲキ生育地」として、指定希少野生動植物種東山保護地区に指定されています。
茶草場には300種以上の草地性植物が生息しており、珍しい動植物が暮らしています。
- ハルリンドウ
- ササユリ
- ヤマハギ
- キンラン
- リュウノウギク
- ヒオウギ
- ナンバンギゼル
- アキカラマツ
- ワレモコウ
- キキョウ
- ハギ
- ススキ
- 葛
- オミナエシ
- フジタイゲキ
- オカトラノオ
- ツリガネニンジン
- カワラナデシコ
- モリアオホソゴミムシ
- ヤマトホソガヤ
- カヤネズミ
- ニホンアカガエル
- モリアオガエル
- サシバ
- ミゾゴイ
カケガワフキバッタ
引用:世界農業遺産パンフレット
カケガワフキバッタは、静岡県の大井川と天竜川に挟まれた地域にのみ生息するフキバッタ亜科の地域固有種で、静岡県レッドデータブックの準絶滅危惧種です。
学名はParapodisma awagatakensis Ishikawaで、粟ヶ岳の名前が入っています。
フキバッタ亜科は、翅が退化して飛べないのが特徴です。
ススキ・クズの葉が主食で、草茶場に生息しています。
フジタイゲキ
引用:掛川市
フジタイゲキ(富士大戟)は、トウダイグサ科の多年草で、静岡県固有種です。
富士山麓や伊豆地方に広く分布していたが、島田市・菊川市・掛川市の3カ所の茶草場にのみ生息しており、環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧II類(VU)に指定されています。
春に太陽の光を浴びて目を伸ばし、5月の下旬から7月には花が開き、8月には種を地面に落とします。
茶草場農法が実施されている地域
日本各地で見られたこの茶草場農法ですが、生産方法の変化や時代の変化にともなって、現在では、静岡県など、ごく一部だけで続けられています。
掛川市を中心に、菊川市・島田市・牧之原市・川根本町に、茶草場が点在しています。
市町 | 茶草場面積 | 代表的集落名 |
---|---|---|
掛川市 | 約242ヘクタール | 東山、大野 |
菊川市 | 約83ヘクタール | 倉沢、富田 |
島田市 | 約38ヘクタール | 神谷城、大代 |
牧之原市 | 約15ヘクタール | 東萩間 |
川根本町 | 約1ヘクタール | 久保尾 |
計 | 約379ヘクタール |
世界農業遺産認定を機に実践者数は平成25年度の515戸から一時増加したが、茶業情勢の悪化もあって令和3年度は407 戸に低下しています。
茶園面積・茶草場面積・認定地域における茶の新規就農者数も減少傾向です。
茶草場農法の観光地
茶草場農法に関連する観光地は、掛川市・菊川市・島田市・牧之原市・川根本町にあります。
草茶葉農法に関連するおすすめの観光地をまとめましたので、ぜひ訪れてみてください。
【草茶葉農法のおすすめ観光地】
- 掛川市:茶草場農法ビューポイント
- 掛川市:粟ヶ岳世界農業遺産茶草場テラス
- 菊川市:上倉沢の棚田・千框(せんがまち)の棚田
- 牧之原市:牧之原大茶園
- 川根本町:くのわき
- 島田市:KADODE OOIGAWA
掛川市:茶草場農法ビューポイント
掛川市東山の茶草場の茶園面積は130haもあり、東山地区の茶園全体180haの7割に当たります。
掛川市東山は茶草場の聖地と言っても過言ではない場所で、京都の大文字送り火を連想させる、粟ヶ岳(あわがたけ)の 一辺130mの巨大な「茶」の一文字がトレードマークです。
昭和7年に地元の提案で作られた松の木が植えられ、マツクイムシの被害からヒノキに植え替えられています。
この粟ヶ岳を眺望できる「ビューポイント」が3か所用意されています。
GoogleMapsには2箇所が登録されており、駐車できる場所があるので、観光に立ち寄ってください。
掛川市:粟ヶ岳世界農業遺産茶草場テラス
世界農業遺産登録を契機に、粟ヶ岳に山頂休憩所「粟ヶ岳世界農業遺産茶草場テラス」がオープンしました。
粟ヶ岳に広がる茶草場農法の茶園だけでなく、富士山・富士山静岡空港・伊豆半島・駿河湾・南アルプスを一望できます。
粟ヶ岳世界農業遺産茶草場テラスについては、下記記事にてまとめていますのでご参照ください。
菊川市:上倉沢の棚田・千框(せんがまち)の棚田
静岡県菊川市上倉沢にある棚田は、「上倉沢の棚田」が正式名所ですが、地元では千枚の田んぼという意味で「千框(せんがまち)の棚田」と呼ばれています。
「メロンの皮のよう」と表現されるような、約500枚の小さい田んぼがモザイク模様に広がり、総面積は10.1ha・作付面積3.5haです。
かつて3,000枚あった田んぼの回復・保存・維持活動が、棚田オーナー制度・NPO法人「せんがまち棚田倶楽部」・静岡大学棚田研究会「たなけん」・「一社一村しずおか運動」の企業などで協力した結果、以下のものに認定・評価を受けています。
- 世界農業遺産「静岡の茶草場農法」
- 静岡県棚田等十選 倉沢の棚田
- つなぐ棚田遺産 千框の棚田
上倉沢の棚田・千框(せんがまち)の棚田の詳細については、下記記事にてまとめていますのでご参照ください。
牧之原市:牧之原大茶園
「牧之原大茶園」は、静岡県茶生産量の約40%を占める日本最大茶園です。
台地の90%が茶園なので、見渡す限り茶園が広がります。
標高100〜200mと周りよりも高台なので、大井川・駿河湾が一望でき、冬の晴れた日に富士山を望むことができます。
牧之原大茶園の発展には、蓬莱橋の存在は欠かせません。
映画・ドラマの撮影地で人気の観光地ですので、ぜひ訪れてみてください。
川根本町:くのわき
川根本町南部にある久野脇集落と三津間集落を合わせて「くのわき」と呼んでいます。
大井川に架かる長い吊り橋、「恋金橋」「塩郷の吊橋」の愛称で知られている久野脇橋を軸に、散策コースが多数あります。
ウォーキングを楽しみながら、茶園・茶草場を眺望することができます。
島田市:KADODE OOIGAWA
KADODE OOIGAWAは、大井川流域最大の観光施設で「緑茶・農業・観光の体験型フードパーク」です。
農産物直売・カフェ・子どもの遊び場・観光案内所など観光拠点として、旅行者に人気の施設になります。
緑茶を「見る・知る・飲む・香る・触れる」5感で楽しむ体験型コンテンツがあります。
大井川流域の茶川根・金谷・島田・藤枝の一番茶を、「蒸し・火入れ」の段階別に組み合わせた「GREEN TEA MANDARA」から、好みの緑茶の選ぶことができるのが特徴です。
茶草場農法のお茶もここで購入可能です。
KADODE OOIGAWAの詳細については、下記記事にてまとめていますのでご参照ください。
茶草場農法の茶葉製品
茶草場農法のブランド化・継承・活性化を目的に、茶草場農法の実践者を経営する茶園面積に対する管理する茶草場の面積の割合に応じて、茶草場農法を行う農業者を3つの区分で認定し、販売する茶関連商品には認定シールをつけています。
この認定シールが貼られている「茶草場農法認定茶」を目安に購入すると、茶草場農法を味わうことが可能です。
茶草場農法で栽培された茶商品は茶草場農法公式HPにて、しっかりリスト化されています。
リストを見ながら現地で直接吟味するのがおすすめですが、ネットで通常購入したりふるさと納税で購入できるので、ぜひ気軽にお試しください。
まとめ
静岡県の茶草場農法についてまとめました。
興味を持っていただけたら、ぜひ観光したり購入してみてください。
一番茶の収穫時など体験期間は限られますが、茶摘み体験を楽しむことができます。
観光するなら、ぜひ茶草場農の茶摘み体験を肌で感じてください。